第6話「果たすべき使命」

 地球に残った人類が全滅した1番の要因は、自然災害ではない。

 もちろん、自然災害が多くの命を奪っていったのも事実だが、地球上に突如として現れた謎の生命体による攻撃こそが、地球に残った人々にとって1番の脅威となったのだ。


 その生命体は決まった形を持たず、それまで地球上に存在している、もしくはしていた動物の姿となって、強靭な爪や牙で人間を限定して攻撃した。


 そして地球上に残った人々は全滅へと追いやられたのだが、宇宙へ上がって滅びを免れた人々は、当然ながらそんな中で着陸しようとは考えなかった。


 世界の7割を占めていた海に目をつけ、海上に《長期間宇宙滞在船》を着水させ、それを基に拠点を作り上げていったのだ。


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《マスター》による昔話を最後まで聞くことができなかった俺は、つい話の途中で質問をしてしまった。



「それってつまり、今俺たちがいる場所っていわゆる海上都市……ってやつなのか!?」


「その通り。7つの拠点は皆同じく海の上に浮かんだ海上都市なんだ。……とはいえ、最初はこれで良かったんだけど、やはり地球は僕たち人類をそう簡単に許してくれないみたいだ」



 俺は再び、話の続きに耳を傾けた。


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 海上に拠点を作り上げるという考え方は結果的に成功だった。


 あらゆる問題点が出ては解決にかなりの時間が要されたが、謎の生命体が闊歩する陸上に拠点を構えるよりかは遥かにマシで、海上には謎の生命体による脅威は無かったので、嵐と津波の対策を中心にバリケードを作り上げ、中を発展させていった。


 そこからは、地球と人類によるイタチごっことなった。


 しばらくして、海上に拠点を作り上げた人類を滅ぼさんと、ついには海の生物にまで形を変えるようになった。

 形を変えたところで、強大なバリケードを突破することが出来ず、潜り抜ける形で突破しても、人々を滅ぼせるほどの力は無かった。


 ところが、その生命体は進化を果たした。


 水中に対しては魚類と同じことができ、陸に上がれば人サイズへ大きさを変えて、攻撃することが可能となったのだ。


 一方、その頃にはもう、人類にも謎の生命体と戦う準備が整っていた。

《長期間宇宙滞在船》を提供した者達が、今度は戦闘技術を提供したのだ。


 その戦闘技術とは、携帯端末の中に専用のアプリケーションをインストールし、起動するだけで、現実の身体が、予め設定で装備させた武器を持った状態で戦闘用の姿に変わるというものだ。

 これにより、生身の身体では出せないような身体能力と、娯楽として親しまれているゲームのような《バトルアーツ》を駆使して、謎の生命体を迎撃することに成功した。


 この戦闘技術を利用して人類は、陸地を謎の生命体から奪い返す作戦を行ってきたが、陸地にいる生命体は、海の生命体よりも強力で、奪還作戦は難航し、今は拠点の総力をあげての作戦は行われなくなってしまったのだった。


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「ここまでが、僕たちの歩んで来た道だよ」



《マスター》は話し疲れたのか、水槽の中でゆったりと伸びをして立ち上がった。

 気泡がブグブクと音を立て、一瞬だけ《マスター》の姿を隠したが、すぐに気泡は消え去り、俺に向かってニヤリとした顔が現れた。



「で、そこに俺の果たすべき使命があるのか? 俺にはとても、あるようには思えなかったが」


「ははっ、本当は分かっているくせに。つまり、君には僕たちと一緒に戦って欲しいんだよ。君は僕たちの新兵器。強い力をその身に宿している」


「俺が戦う? 冗談だろ? なんで、今日初めて会ったお前らの為に俺が命を張らなきゃいけないんだよ。っていうか、そもそも新兵器ってなんなんだよ?」


「冗談ではないよ。僕たちは謎の生命体……現在では俗に言う《エネミー》を倒す為に、強大な武器を手に入れた。しかしそれには、相応しい持ち主が必要で、どう検索して演算しても、それを満たすことが出来る人間がいなかった。そこで君なんだよ」


「俺を、召喚したって言うのか?」


「厳密には君の魂をね。皮肉なことに、地球の人類を滅ぼす意思が具現化したとも言える存在である《エネミー》を倒すには、地球から嫌われていない魂が必要だった。でも、当たり前の話だけど、魂には器が必要。幸運なことに君は、この世界の君と魂のシンクロ率が高かったんだ。だから僕たちは君の魂をここへ連れてきた」


「随分と科学が進んでるってのに、魂とはねぇ。……ん、待てよ」



《マスター》は今さっき、俺の魂を「この世界へ連れてきた」と言った。


 だが、それはおかしい。もしも突然に、俺の魂が俺の身体から離れていったのなら、俺は仕事中か帰宅中に突然倒れるはずだ。

 それはつまり、刺される瞬間を狙っていたと考えるべきなのでは?



「俺は帰宅中、後ろから刺された。そして意識を失い、目覚めたらこの世界の来ていた……ってのは、ちょっとタイミングが良すぎないか? まるで俺が刺されるのを知っていて待っていたかのようじゃないか」



 そんな俺の疑問に、《マスター》はかなり腹黒さを出した笑みで答えた。



「惜しいね。そんないつ起こるか、そもそも起こるのかどうかもわからない出来事を待っていられるほど、僕たちに余裕はない。だから僕たちは、君の身体から一時的にでも魂を引き剥がす為に、殺人未遂を企てて実行したんだよ」


「マジかよ……。ってか、それなら尚更のこと、お前らの為に命を張る理由なんて無いじゃないか」


「そうだろうか? もし、君が僕たちに協力して使命を果たしてくれるのであれば、僕は君の願いをなんでも1つだけ叶えて、君を元の世界へと帰すことを約束しよう」


「ん? 今、なんでもって言った?」


「そう。なんでも、だ」



 その時、俺は悩んだ。


 こんな平和な楽園とは程遠い世界で《エネミー》の脅威に怯えて生き続けるよりも、元の世界へ帰るために戦い、願いをなんでも1つだけ叶えてもらって帰れば、なんだか得した気分になる気がしたからだ。


 そう。なんでも、だ。


 女子と無縁なこと俺に、そんなムフフで魅力的な提案を断ることは出来そうにない。



「なんでもって言ったが、それは酒池に……」


「もちろん、その四字熟語を現実のものへと変えることも可能さ」



 ……中身がお爺ちゃんだってことを知っているからいいけど、側から見れば俺は少年になんてことを言わせているんだろう。


 だが、そんな理想郷の実現が可能だと言うのであれば、男として引き下がるわけにはいかない!


 やれるだけ、やってみればいいさ。



「わかった。……というか、そもそも俺の使命って何だ?」


「この世界に平和をもたらせること、だよ」


「無理じゃね? 実現する前に、俺が年老いて死んじまうだろ」


「言っただろう? 君には強大な力がある。実現が可能だからこそ、僕はこんな提案を君にしているんだよ?」


「本当に、出来るのか?」


「もちろんだとも」



 根拠はないし、そもそもこの少年が本当に《マスター》なのかどうかも定かではないが、俺は信じてみることにした。


 他でもない、その理想郷を実現する為に。


 それと、英雄になれるなら、やってみたいじゃん?



「……わかった。ちゃんと約束は守れよ?」


「うん。ちゃんと約束は守るよ」



 こうして俺は、未来なのか異世界なのかよくわからない未来異世界で戦うことになった。

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