第5話「地球の意思」
それは、最高地点とも言えるほどに文明が発達して、人々の生活にほとんどの不自由を感じさせない状態が当たり前となっていたある日のことだった。
かつて何度も騒がれた「地球滅亡」が、世界レベルで動かざるを得なくなるほどに現実味が出てきてしまうという事件が起こった。
その根拠として挙げられた内容はまず、海水の水位上昇だった。地球温暖化を抑止していこうという動きはずっとあったものの、徐々に厳しくなっていく気候に合わせて器具を使っていった結果、止めることが出来ずに、氷が溶けていってしまったことである。
次に、地震の回数が多くなったということ。
地球は、中心から内核・外核・下部マントル・上部マントル・地殻……というように層構造となっている、と言われているが、地震は上部マントルと地殻の間に10数枚あるとされる
ただ、地震の起き方には様々な
水位が上昇し、
自らの都合で他の生物達の生きる自由を奪った人間を見兼ねた地球が、人間だけではなく「一層のこと全ての生き物」を滅ぼし、リセットしてしまおうという説……「アースリセット説」だ。
ところが「アースリセット説」だけではなく「宇宙人が攻めてくる」だったり「地球上で、人間だけを殺す生き物が誕生する、人類滅亡」だったり、危機感の感じ方は人によって異なった。
しかしある時、ただ滅亡を甘んじて受け入れることしか出来ないように思えた人類に、救いの手が差し伸べられた。
詳しい技術を知り得る人間は少ないが、滅亡の瞬間を逃れる為に作られたという《長期間宇宙滞在船》を所持している人が、国単位で救おうと名乗り出たのだ。
名乗り出た人間にこれといって共通点はなかったが、その人達は口揃えて「ただし、国の崩壊を認めること」という条件を出したという。
そして結果、その条件を飲んだ人たちは宇宙に上がり滅びの時を免れ、拒んだ国の国民は地球に残って「滅ぼそうとする地球の意思」と戦い、やがて全滅した。
しばらくして、地球の安全を確認した《長期間宇宙滞在船》はそれぞれ地球に戻り、上昇した海の上へ降り立ち、そこを中心に拠点を開いていった。
かつては、それぞれが付けた名前の拠点がいくつもあったが、新たに地球で住処を作ろうとする中で合併し、最終的に大きな拠点が7つとなって、第1から《ドゥーベ》《メラク》《フェグダ》《メグレズ》《アリオト》《ミザール》《アルカイド》と、北斗七星に例えられて名前が付けられた。
それぞれの拠点には管理者……《マスター》がいて、陰から拠点の発展に尽力しているわけだが、国という概念が失われた今、実質各拠点の《マスター》が支配している。
しかし、基本的に《マスター》の居場所を知られないようにしており、これは反乱防止を目的としている。
拠点同士は仲が良いわけではないが、悪いわけでもない。勢力を拡大する為に小競り合いを繰り返しているが、時に親睦会のようなことを開催することもある。
そんな7人の《マスター》が支配するこの世界を、人は《七剣星の世界》と呼んでいる。
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この世界が一体どういうものかの説明がひと段落し、目の前の少年……《マスター》が3秒ほど沈黙したところで、俺はすかさず質問をした。
「世界の成り立ちっていうの? そういうのはなんとなくわかったけど、地球に残った人類はどうして全滅したんだ?」
「地震や水位上昇だけではない。それで全滅する程、人の数は少なくないからね。けど、その話はまた後で」
「わかった。他の拠点の《マスター》ってどうなんだ? お前みたいに子供なのか?」
「見た目はね。こうして話している通り、僕たち《マスター》は、宇宙へ避難する時から人々を導いている。……本来なら、こうして拠点を作り上げるだけで僕たちの役割は終わっていたんだけど、勢力を拡大していく為に先頭に立てる人がいなくてね。そうは言っても、僕たちだって年老いていくわけだから、少年の体へ記憶・思考・人格を全て移して、拠点を管理しているわけさ」
俺はその話を聞いてゾッとした。
言ってしまえば、世界を維持する為に年寄りが少年の体や未来を奪っているということだ。
そんなのは非道徳的過ぎる。
「……何の罪もなく、まだ未来がある少年を犠牲にしてまでかよ!?」
「まだ未来がある、からこそだよ。未来のない年寄りでは死ぬのを待つだけだからね。それなら、長期的にかつ、最小限の犠牲で済むように少年の体を利用するのが1番なんだ」
「はっきり言ってやる。どうかしてるぜ」
「理解されようとは思わない。こちらの勝手だけど、君には別に果たして欲しい使命があるからね」
「果たして欲しい使命……?」
「そうだよ」
《マスター》は再び、何かを思い出すように首をひねりながら、説明を再開した。
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