卑怯な大人たち



この世の終わりみたいな顔したアルフが止めに入って、大馬鹿野郎へのお仕置きはこれにて完了。

勇者様は怒鳴るでも謝る訳でもなくひたすら泣くだけの存在になってしまった、ほんのちょっとやり過ぎたかもしれない。

真っ赤に染まった拳を布で拭きつつ反省。でも、自業自得でこっちは正当防衛だから問題あるかないかで言えばうん…うーん。



大丈夫?

辺りを見回し確認する。



青褪めるどころか真っ白な表情の交流会参加者と教皇様。

お姉様素敵ですわと涎を撒く変た姫様がピクリとも動かないアルフの顔面を掴んでいる。

下々を押さえて悶え苦しむ兵士達。



あれ、問題あるかも。

ここで慌ててはいけない。付いた血を拭き終えたら何食わぬ顔で腫れ上がった勇者様から立ち離れてとりあえず微笑んでおく。

その際、一名を除いて他から小さな悲鳴が上がったのは気にしない。


でも、誰も声を発さないくらい温度が冷めきった状況。いまさら微笑んだ顔から怖かったと怯えに変えれる雰囲気でもない。



困った事態に頭を悩ませていれば絶好の機会がフラフラとやって来た。


「ぐ、ぐそぅ…このわらひに不敬を働ひおって…許ざん!!」


鼻の両穴から真っ赤な聖水を垂れ流した爺さんことドワノフが膝をガクガクさせながら頑張って復活した。

俺を射殺さんばかりに睨んでくる、けどそれやったのスゥ様じゃん。そんなスゥ様はちゃっかりシーナさんの位置まで帰っている。



「殺す殺す殺すコロスころすコロスコロス…。」


呪いの言葉を紡ぎ取り出してきたのは何かの液体を入れた瓶。

とても既視感を感じる瓶、ドワノフはそれの蓋を外して股間の激痛に耐える自分の兵へと掛けていく。



すると、掛けられた兵士達は次々と呻く声を叫び声に変えていき身体を震えさせ始めた。

震えた身体はボコボコと不吉な音を立てながら膨れあがらせていく。


おぉーなんか久しぶり。

あのゴツゴツ岩の様な巨体に例のごとく服が耐えきれず色々露わで絶妙な場所に破れた衣服が引っ掛かって隠れている。


きゃあ、乙女になんてものを両手をパーにして一応顔に覆ってみる。

またノートンが呆れた目で見ている。



そんな目からは逃げて目の前の怪物を楽しもう。情けなく倒れる勇者様よりも強い怪物、前回はノートン達に討伐権を盗られたけど今回は大丈夫でしょう。

ニヤけちゃう顔を下に向けて隠す。


「クハハハ、怖気付いたか小娘め。だが、許ざない殺す皆の前でその身を引き裂いてくれるわぁ!!」


うん、怖い怖い。

ちゃんと俺一人に怪物達を向けてくれて本当に怖くてありがとう。


苛々ばかりの交流会に頑張って参加した俺へのご褒美。

ウキウキ気分で構える。


「待たせたな!」


「騎士達を連れて参りました!」


俺を庇うように横から入ってきたのは幾度も魔物との戦闘を邪魔したガルム団長と愉快な仲間たち。

それと教国の聖騎士総団長のアルフィンさんと愉快な仲間たち。


さっきまで姿が見せ無かったじゃん。


「ど、どうして…。」


「いやぁ、結構序盤から到着してたけどあの惨劇を目撃したら躊躇いましてな。ぶっちゃけ我ら必要かななんて思ったりもしましたぞ。」


「そうですね、私も冷や汗が止まらずガルム殿と機会を伺っておりました。ぶっちゃけ何あの生物兵器達なんて思ったりもしました。」


「いや、あの最後まで私が…。」


振り向く二人は俺の台詞に被せて告げる。


「「いえいえこれ以上聖女様のお手を煩わせる訳にはいきません(からな)」」


めちゃくちゃ良い笑顔。

聖女の命の危機に鑑賞しててよく言う。騎士の面目とか分かるけど、今日くらい全部俺に譲ってよ。


嫌だ嫌だと駄々をこねる俺を無視して騎士達が果敢にも怪物達に挑んでいく。そこには俺やスゥ様にドン引きしていた面影はない、もう楽しそうに戦う戦闘狂だ。






しばらく続いた激闘の末に斬り伏せられた怪物達、ホクホク顔で満足そうに勝利の雄叫びを上げる騎士達。



そして、悔しそうに涙を流しながら床を叩く少女の姿がありました。



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