ドキッ不安だらけの交流会5
一瞬クソ野郎は止まる。
丁寧に口臭を指摘してあげたのに汚物勇者様の崇高なる思考ではすぐには理解出来ないのでしょう。
剣を向けたまま呆けてとてもお間抜けさん。
でも、次第に解析が済んだようでまた顔を真っ赤に染めていく。もう本能のままにというように剣を振り上げてきた。
俺は特に慌てることもなく最終忠告を告げる。
「勇者様、それ以上の行ないを続けるのであれば私も遠慮を致しませんよ。宜しいですか?」
「なに?」
一応はまだ俺の声に反応出来るようだ。振り上げた状態で訝しげな顔で睨んでくる。
「ですから、それはもう試合用の剣ではなく殺り合う剣です。貴方はもう私を殺す気なのですか?それで宜しいのですね?」
俺の忠告がどう伝わったかニヤリと笑う愚か者表情ですぐに分かる。
「フハハハハ今更命乞いか?しかし、もう遅いわ!公衆の面前で貴様を両断してくれるわ!!」
「そうですか…。」
小さな聖女様を一刀両断せんとばかりに振り下ろす刃。
ただ今にも斬り殺そうとする勇者渾身の刃を前に小さな聖女様の口は笑っていた。
「なら遠慮はいらねぇな。」
「………ほへ?」
こんな驚愕で漏れたにしては可愛らしい声は他でもない勇者本人。
けれど、驚くのも無理はない。
自我ともに認める渾身の一撃は、自分よりも確実に小さな少女の小さな中指と人差し指の間で挟まれて止まったのだから。
「爺ちゃん直伝シケーンシラハン取り。」
外国人のうろ覚え言葉で我に返る勇者は未だに受け止められたままの剣を聖女から離そうとする。
しかし、そこに固定されたように動かない。力任せに幾ら引き剥がそうともその場で留まったまま。
「ぐうぅぅぅ離せええぇ!!!」
「あいよー。」
「ぬおっ!?」
能天気な返事と一緒に素直に離して差し上げる。
力いっぱい剥がそうとした反動は予想以上に強い。盛大に尻もちどころか背中をぶつける偉大なる勇者様。
その拍子にせっかくの剣が手元から離れていく。
あまりにも滑稽でニヤニヤと微笑んで眺めてあげる。
「ぐぅっ貴様…。」
舐めやがってと続けたかったが叶わない。
何故なら恐ろしいほど微笑む少女がお腹へ馬乗りで跨がってきたから。これで今からムフフな展開へと繋がるとは幾ら勇者でも思わない。
「ぐっ…どけ!俺様は勇者様だぞ、死にたくなければどけ!!」
この期に及んで口だけは王者の佇まい。
でも、藻掻こうにも両腕は聖女の足がしっかりと封じていた。
「流石は勇者様。こんな状況下でもその豪胆さは感服致します。でも、やり過ぎだよバーカ。」
微笑みはそのままで眼だけがギラつく。
「ひぃっ!?だ、誰か俺様を助けろ!ど、ドワノフ、兵を兵を!!」
残念ながら誰からも返事は無い。
だって俺が辛抱出来ないくらい苛ついたんだよ、あの変態獣系信者が大人しく出来る訳無いでしょ。
その信者の方を見やればドレスの色を赤色に染めてひらひらとこちらに手を振っている。
死んでいない事を祈ってます。
さて続きを始めましょうね。
怯える勇者様のご尊顔に優しく拳を振り下ろしていく。
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