タローの決意



僕は地球から異世界へと巻き込まれてしまったただの人間。

秀でた力は追い出されてから生まれた鑑定という力だけ。この鑑定は便利だと思う。全く知らない世界で何も知らないままに追い出されてもこれのお陰で色々と知ることが出来たから。特に薬草に似た毒草を誤って採取って事にはならずに済んだ。


僕の人生を延長させてくれたのは間違いなく鑑定。けれど、所詮は延長で引き延ばしてくれるだけ。僕自身の身体能力は一般人レベル、筋力に関してはそれ以下だ。

もう一つ僕のステータス上には『聖女の導き』と記されている。けれど、今の所その恩恵は無く深い関わりがありそうな聖女様達にも会うことが叶わない。会えさえすれば変わるかもしれないけれど、勇者でもない一般人の僕が会えるわけもない。



そして、自分の人生に終止符が訪れようとしていた。

自分よりも数倍はある体格を持つ魔物に囲まれた。鑑定しなくても分かる力量の差。


あぁ、死ぬんだなぁ…。


悲しみや怨嗟よりも先に諦めがストンと胸に落ちてきた。力量でも数的にも負ける相手を前に何をどう歯向かうっていうのだろう。


「誰か助けて…。」


諦めたはずなのに口から出たのは救いを求める声。

恐怖が生きる事を諦めさせてくれない。僕はそんな想いを振り払うように目を閉じた。


大きな魔物の前足が眼前へと迫って来た。


あぁ死んだ、すぐに痛みもやって来るだろう………………ん?



瞳を開ければ天使がいた。



何を言っているか分からないと思うけど、文字通り天使がいたのです。

絹のように滑らかで煌めく長い黄金色の髪に温かくも優しい光が天使の少女を包んでいた。羽根や輪っかは無いけど断言出来る程に天使。

思わず零れた僕の天使という一言に天使は眉を8の字に曲げて苦笑しながら否定した。



それが僕にとって初めての聖女様との出会いでした。




世間一般で知られる聖女は、清楚でお淑やかで少なくとも危険な魔物が彷徨く森に現れるはずがない存在。

でも、この天使こと聖女様は違った。僕よりも小さい容姿であるにも関わらずあのビッグボアと相対して一切の怯えを見せず闘っていた。本当は怖いのかもしれないけど、気丈にも笑みを浮かべて見かけに反して勇敢な御方だと思った。



そして、未だ目の前の神話の光景で狼狽えている僕をよそにビッグボアを蹴散らしてしまった。

鮮やかに撃退し快活に笑う聖女様。その時ばかりは年相応の少女に思えた。




死の危険を逃れホッとしたのも束の間。

お礼を告げた僕の顔をジッと凝視してくる天…聖女様。幾ら幼女に近い少女でもこんな可愛い女の子に見つめられたら落ち着かない。


凄いお目々がぱっちりだぁ…僕はノーマル僕はノーマル僕はノーマル?…。


聖女様は心の葛藤をする僕へ更に乱れる言葉を投げ掛けてきました。



「ねぇ、お兄さんってとても珍しい髪型してるね。なんか、その最近話題の人と似てるね。誰とは言わないけど。」



タロー列島精神町に嵐がやって来ました。

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