聖女VS勇者3
公衆の面前で鼻血ブーという醜態を晒した勇者様。
審判で味方であるはずのドワノフも思わず笑っていた。
そして、その原因である俺を怒りと憎しみで燃えた目が睨んでいる。
ただの試合なのに殺す宣言。審判は当然のごとく咎めない。
俺としては少しでも相手がやる気になってくれるならそれでいい。
また試合が再開された。
今度は勇者が率先して攻撃を仕掛けてくる。勇者持ち前の身体能力で迫る。
でも、素早いだけでつまらない。勇者らしい力強さはあるけど、すっかり怒りで大振りな剣さばき。こんなの少し立ち位置をずらすだけで対応出来る。
ここまでの戦闘だけで断言出来る、こいつ戦いというものを一切知らない素人だ。勇者としての力とやらは備わっているようだけれど残念でならない。召喚されてから全然鍛錬とかしてなさそう。
「はっはっは、躱すので精一杯のようだな。今なら地べたで泣きながら許しを乞えば許してやらんこともないぞ。」
残念な子を見る目で躱していく。
それが感に触ったようで舌打ちをする。
こんな攻防がしばらく続く。
鍛錬不足の差か先に息が上がり始めたのは偉大なる勇者様。
こっちは無駄に動いていないし当然っちゃ当然。
片膝をついてしんどそう。
「はぁ…はぁ…。」
「随分とお疲れのようで……大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…はぁ…貴様ぁ。」
息が切れてもその瞳は未だに憎悪で燃えている。好戦的なのは良いと思います。
すると、勇者様の周りをいくつもの炎の玉が現れ始めた。数は二十を超える。
これってもしかしなくても魔法?
「貴様は俺様を怒らせ過ぎた。不敬を働いた貴様は死を持って償うがいい。」
「それって魔法ですよね。審判さーん、これは反則ですよね?止めるべきでは?」
「…………。」
俺がドワノフ審判に異議を申し立てても無視される。むしろ、愉快そうにニヤニヤと笑っていた。
不正だー横暴だー………ってのは冗談で剣や拳以外の戦いが楽しめる。ウキウキが止まらない。
「貴様、なにがおかしい?」
どうやら俺は笑っていたようだ。まだまだ感情を隠せないお年頃です。
「ふふ、それは可笑しくもなりますよ。だってこんな年下の子供相手に息も絶え絶えに暴言を吐く姿がとても滑稽でして。」
「……絶対殺す。」
「もうそれは聞き飽きました。もっと愉しませてくれないとレディーの相手は務まりませんよ。」
「ほ、炎よあいつを…あの女を灰になるまで燃やし尽くせ!!」
俺を灰にしたいなんて素敵な告白。
でも、ごめんなさいお断りします。
俺を捉えて止まない炎の玉は次々とやって来る。速さはそこそこで数もまだまだ余裕の範囲。追加で火の玉補充してくれるけど結果は剣戟の時と同じ展開でひたすら躱し続けた。
馬鹿の一つ覚えみたいに火を放ってくるから他にも無いの?と注文すれば風の刃も織り交ぜてくれるようになった。
ここの店員はかなり気前がいいね。
ふと戦いの最中思うことが、魔法に際限はあるのか?
今の所どんどん魔法を追加してってるけどずっと出し続けられるのか。俺、気になります。
なら、やる事は一つ。煽って煽って煽りまくって限界を知ろう!
もちろん、言葉遣いは丁寧に淑女なので。
「あらあら、まだ私に当ててくれないのですか?」
「うるさい!」
「予定では灰にするそうですが、今日中に完了しそうですか?私、晩ごはんまでには帰りたいのですが…。」
「うるさいうるさーい!!」
「ほれほれ、どうしたどうしました。まだまだ当たりませんですぜー!」
「はぁ…はぁ…う、うるしゃい。」
とうとうバテちゃった。
そこから一歩も動かず魔法だけを乱発してたのにかなり疲労している。
やっぱり限界とかあるみたい。
じゃあ、良い子の実験教室もこれにて終了と致しましょう。
「勇者様、本日は非常に楽しい演劇を催しして下さり誠にありがとうございました。ですが、もう終わりです。」
「ひっ…。」
優しく微笑んだつもりなのに小さな悲鳴が漏れた。
勇者様ったら酷いです。
徐々に恐怖が侵食し始めた馬鹿野郎にゆっくりと近づいていく。
それを拒むように魔法が飛んでくるけどもう勢いも威力もない。
ちょっと横にずれたりと避けつつ、はいこんにちわ。
片膝をついたままなのでとても丁度いい位置。
では、最初の頃のように顔面目掛けて思い切り拳をぶっ放す。
反応だけはすこぶる良い勇者は頑張って木剣を構える。けれど、最初と違ってそこに俺の一撃を防ぐほどの力は残っていない。
もう恐怖に染まりきって可哀想に。
黙って剣と熱いキスを交わしてくださいませ。
鈍い音と一緒に偉大なる勇者様が飛んだ。
地面と平行するように進み、進んだ先には計算通りの人物が。
どうぞ仲良く飛んで下さいな。
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