聖女VS勇者



ついにやって参りました、勇者との楽しいお遊戯。事前にアルフから試合の説明は確認済み。武器は殺傷力のある物は禁止で木剣などは使って良し。勇者は魔法も禁止。

殺しては駄目で先に負けを認めるか気絶したら負け。死の危険が無い生温いお遊び。


でも、どんなに性格が泥水よりも濁ってても強者であるなら楽しみ。苛々とか抜きで俺の戦闘欲が疼いてたまらない。


そんな殺る気満々の俺に巻き込まれ兼従者兼タローお兄さんが止めてくる。


「聖女様、止めた方が良いかと思います。彼は僕なんかと違って選ばれし勇者です。巷では強いと噂されています。恩人が傷付くところを見たくありません。」


随分と心配性だね。

見た目がか弱い少女だとどうしても心配させてしまう。


「タローよ、この聖女様はただの聖女様じゃない。そこらの男よりも断然強い。もちろんそこらの男の中にはあの糞勇者も入っている。我が国の聖女様はな漢の中の漢なんだよ。」


アルフの言葉にはいつも無駄に一言多い。そんなにメッてされたいの?しょうがない、じゃあしてあげる。


「もうアルフったら失礼です。メッ!」


ゴン


幸い頭蓋骨を陥没するには至らない。急いで頭を擦りに入るノートン、それを見て黄色い声をあげるメイド達。


愛よあれは愛とキャッキャッするメイドをよそにタローお兄さんに一言申す。


「タローさん、心配してくれてありがとうございます。でも、私はそこそこ腕には自信があります。なんなら、貴方の鑑定で私を視てもいいですよ?だから、信じて私の戦いを見守ってて下さいな。」


「し、しかし…………え、嘘…何この数値。ば、バグでも起きた?」


急に唖然とした顔で俺を見てきた。

どうしたの?

もう行くよ。



人ならざる者を見たような目で見てくるタローさんをもう無視して先を進む。

アルフ達は応援席へと移動していった。



いよいよ試合会場へと乗り込む。

ただの試合なのにドレスで着飾った色とりどりの女性達が観戦席に座っている。

当然ながら俺の登場したとこで声援も何も無い……訂正、スゥ様と何故かエルドさんが殺ったれアリス様と書かれた横断幕を掲げてこれでもかと声援を送ってくれていた。

止めて、教皇様が引いてるよ。


会場の中央つまり戦いの場まで来るも勇者はまだ来ていない。ましてや、審判すらいない。


逃げ出したなんて心配性は無い。気配は既に入口前からしている。

なにしてんの、はよ来い。



「皆のもの讃えよ!教国に女神の意志により降臨されし偉大なる勇者 ユータ様のご登場であらせられる!」


ただの試合なのに大仰な入場前の選手紹介。

それに歓声をあげる女性達。

紹介が合図なのか、糞生意気勇者が黄色い声援をあげる女性達にウィンクしたり投げキッスを送ったりしながらゆっくりと登場して来た。気持ちが悪い。

傍では連れ添うようにドワノフ枢機卿が追随している。

相変わらず俺を馬鹿にしたような目で見てくるな。



ようやく俺と向き合う形までやって来た。勇者と俺の間にはドワノフ。

どうしてドワノフがそこに?


ちらりな視線に気付いたドワノフは鼻息をフンと吹かす。


「光栄に思え、聖女アリスよ。この枢機卿である私がわざわざ審判してやる。感謝せよ。」


「は、はぁありがとうございます。」


「ふん、相変わらず礼儀を知らん。聖女の品格を落とす愚か者め。」


いちいちいちいち俺の苛々に燃料を注いで下さるおじいさんだ。

どうして審判を買って出たか知らないけど邪魔だけはしないでね。



更に燃料を投下してくる存在。


「おいお前、この優しい俺様が直々に手解きしてやる。喜ぶと良い。」


いやん、気持ち悪い。

俺の下から上までじっとりと見て本当に吐き気がする。


「まぁありがとうございます。あ、でも直ぐに気絶しないで下さいね。」


「あん?」


「ふふ、だから少しは私を楽しませて見せなさいと言うことです。」


ニコニコと満面の笑みで煽って差し上げる。ちゃんと俺の気持ちを受け取ったようで簡単に青筋を立てて顔は真っ赤。


「………ぶっ殺す。」


「ふふふ。」


殺る気を出してくれた勇者に初めて感謝しました。



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