前日まで早送り



巻き込まれタローさんと姫様の初めての邂逅が終了した。

ようやく荒れていた場が落ち着き、ちゃんとお兄さんとの出会いからお兄さんの境遇までを皆へ説明していく。

その中でアルフがとても親身になって心配していた。理不尽に巻き込まれて酷い目に遭う、王子様だからそういうことを幼い頃から体験していただろうから同情しているのかもしれない。


だから、教国を出て王国で暮らすことを快く受け入れてくれた。


とりあえずタローさんの保護はこれでよしとして、残る問題というか楽しみなのは勇者との試合。

アルフ情報では随分と舐め腐っているご様子。


「実際問題、勇者かどれほどの強さか分からない。油断している間で一気にあの人を見下した顔をボコボコに殴り潰してくれ。これ王子からの一生のお願い。」


こんな事で一生の願いを使うなよ。


「まぁ、レディーに対する礼儀がなってない馬鹿に遠慮はするつもりないよ。」


「あぁ、レディーね。」


これはアルフを殴っていい。鼻で笑ったもん殴ったよ。


俺の強さを知っている皆はどうあの勇者を料理するか熱い会議を繰り広げているけど、タローお兄さんは俺が勇者と闘うと知ってとても心配してくれた。


「え、皆、アリス様がユータさんと戦うの誰も心配しないのですか?相手は勇者ですよ。」


いいね、確かに俺はちょっと腕っぷしに自信があるだけのか弱い女の子。こうやって心配されるのは嬉しい。


でも、懲りていないアルフを筆頭に心配するタローさんに笑いながら告げた。


「だってなぁ…。オーガの大群よりも何倍も怖い我らが聖女様だぜ!」


まぁなんと素晴らしい笑顔で言ってくれやがるのでしょうかこやつは。

良い度胸してるね、ちょっと付いておいで。


タローさんに元気よく返したアルフ王子様の腕を掴む。


「ふふふふ。」


「あ、違うよ。言葉のあやで怖いとかじゃなくて勇ましいというか…そのあの。」


「ふふふふふふ。」


「ちょっと腕から聴こえてはいけないくらいの軋み音がするんだが、ねえ、聞いてる?お、おいノートン、シーナ、タロー殿助けてくれ!!」


残念ながらノートン達は窓際に置かれた鉢植えに夢中で見えてないし聞こえていない。


「ふふ、お姉様私もお手伝い致しますわ。こんな愛に溢れ気高く美しくむしゃぶりつきたいお姉様に対して失礼ですわ。」


不穏の混ざる賛同だけど折角のお手伝いを無下には出来ない。一緒に私達のレディーらしさを体の芯から叩き込んで差し上げましょう。



アルフがノートンの元に帰って来たのはこの日の夜だった。彼を見たノートンの証言では、瞳から光を失っていたそうだ。更にブツブツと呪文のようにひたすら聖女は淑女聖女はレディーと呟いていたそうな。

結果、彼が正気に戻ったのは勇者との試合当日までかかる事となった。



魂の抜け落ちたようにふらふらと歩く彼を献身的に支えたノートン。

それを何度も見かけたこのお城で働くメイド達。


物書きを趣味とするメイドによってこの二人を題材にした禁断の恋愛小説が出版されていくのはまた別のお話。


別の意味でシェアローズ王国のアルフ王子の知名度が上がっていきました。


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