姫さまは嗤っている



血管ぷっちぷちだったアルフ達。

どうやらあの勇者共のお陰で随分と破裂させたらしい。けれど、約束はちゃんと取り次いでくれた。

良い子良い子と治療がてら頭を撫でてあげてたら、とても殺意に満ちた表情であのクソ野郎をボッコボコにしてくれとせがまれた。

ノートンですら思いっきり顔を縦に振っている。

姫様は既に殺る気満々でシーナさんが鎖で身体を縛っている。

なるべく穏便にを掲げるアルフがここまでの衝動に駆られているとは、勇者はある意味やるようだ。


治療を終えてお兄さんのことを説明するため、アルフ達を俺の部屋へ案内する。



「よし到着。会わせたい人がいるから入って入って。」


「あぁ、それより会わせたい人とは誰なんだ?」


先に入った俺に先導される形で巻き込まれ君ことタロー・タナカさんと王子様のご対面。

お兄さんは椅子に座ってるけど不敬にはしないであげてね。


お互いに初対面。お兄さんには誰かに会わせるなんて事前に伝えてないから口をパクパクさせている。

今だけこの部屋の時間が止まったみたい。



でも、誰よりも先に声を発したのは他でもないスゥ様でした。拘束していた鎖はいつの間にか砕け散っていた。


「お姉様、どういうことですか?」


誰ともなく小さな悲鳴が洩れた。

それほど姫様の声音は低く人の心を底冷えさせる力がある。

顔から表情が抜け落ち、どんな魔物よりも恐ろしい。


この場にいる殆どの者が歯をガチガチと鳴らし始めた。

俺ですら少し身震いしてしまう。


「お姉様、この人は誰ですか?」


「え、み、皆に紹介したかった人だけど。」


強烈な粉砕音が聞こえた。


なんだ、鎖が粉々に握り潰されただけか。


「……紹介したかった人?」


「う、うん、大事な話があるからね。」


またしても粉砕音が響き渡った。

テーブルに置かれていた水差しが粉末状に変わっていた。


砂になった水差しを見て、またスゥ様の方を見る。下に俯いてどんな表情をしているか分からない。



しばらくその体勢が続く。

だから、ここは実の兄で頼りになるアルフに様子を伺ってもらう。

必死に抵抗するアルフの背中を皆でそっと強引に押してあげた。



「す、スゥ?どうした?落ち着け、俺もまだよく分からん状況だが落ち着こうな。最後まで聞こうひぃっ!?」


バッと顔を上げたスゥ様にビビるアルフお兄ちゃん。

後に彼はこう語る。

あの時の表情が忘れられない、三日三晩夢でうなされましたと。


顔を上げたスゥ様は身体をアルフに向けたまま、顔だけ後ろのタローさんに向けた。

彼は恐怖で椅子をガタッと音をさせながら立ち上がった。逃げることは許されない。これより少しでも間違った回答及び行動を示せば、彼の頭は胴体とお別れすることだろう。


「貴方はお姉様のなんですか?ねぇ、なんですか?」


「ひぃっ…ぼぼくは、たたただの従、従者ですぅぅ!!」


アルフの図体が大きいせいで見えない。二人のやりとりする声しか分からない。

一つだけ分かるのは、お兄さんが泣いていることだけ。死の危険を前に必死に声を振り絞っている。


「従者?」


スゥ様の声音に少しだけ変化を投じた。

死の淵に立つタローさんはそれを見逃さない。


「は、はい。従者です!それ以上でもそれ以下でもございません。いいえ、言い過ぎました。自分は従者以下であります!」


「へぇ、そう…。」


また沈黙が訪れた。


おそらくただいま審議中。

彼の生死がここで決まる。


「……そうですか。大変失礼致しましたわ。エルド様から事前にお聞きしておりましたが、改めて不埒なお方ではないか確認させて頂きました。」


タロー・タナカ無事生還。

アルフとタローさんは緊張の糸が切れたのかほぼ同時に地べたへ座り込んだ。


立つのは、いつも見せる無邪気な微笑みをしたスゥ様だけでした。

それよりもエルドさんといつの間に接触していたのか凄く気になります。

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