聖女のこっそり冒険活動3



大峡谷へと続く森。

俺達でこぼこな御一行は早速薬草採取の為に潜り込む。



薬草採取は自国でも体験済みだから見分けがつく。なるべく離れないようにしつつ手分けして探していく。


薬草はちょこちょこ出て来てくれるけど、なかなか魔物ちゃん達は出てきてくれない。

お願い出てきてと心で祈り続けること少し、ようやく最初の御相手ゴブリンちゃんが現れた。


俺の相手としてはちょっと役不足だけれど構わない。意気揚々と腕をぶんぶん振る。


そんな俺の横を通過する物体。


あれはエルド野郎の大鎌。

俺が呆気に取られる中、ゴブリンちゃんは登場挨拶の鳴き声途中で脳天を貫かれ後ろの木に固定された。もうその子の挨拶を聞けることは無かった。


うん、まあ最初だし譲るよ。俺大人だし先に獲物を盗られたからって怒らないし、エルドクソ野郎の実力も知ってたかったし。

次行こ次。


あれから数十分。出てくる魔物達は次々と変態と護衛に奪われていく。

俺はその度に血の涙を流さんばかりに唇を噛み締めた。

まだ一日は長い。機会はまだあるはず、俺は自分にそう言い聞かせた。



護衛どころか変態まで優秀だとは思わなかった、とんだ誤算だ。以前だと一緒に馬車で王都へ向かっていた時は魔物に怯えていたのに、あの時の彼よ今一度戻ってきて。



俺の想いは変態に届くことは無かったが、代わりに遠くの方から助けを求めるような叫び声が微かに届いた。

俺は聞こえた瞬間、すぐさま声の元へと駆け出す。


「ど、どうされました女神様!?」


「悲鳴が聞こえた、急ぐよ!」


どうやら護衛には聴こえてなかったようで慌てて俺達の背中を追いかける。

エルドさん?エルドさんは当然のように横を並走しているよ。信者って怖いね。


声までの距離はそこそこある。間に合って欲しい、生きていれば俺が助ける。



しばらく走り続けると生い茂る木々を抜け拓けた場所へと出た。

そこで俺が目にしたのは一人の青年が大きな魔物数体に襲われている光景だった。


魔物はビックボアという見つけた獲物へ強烈な突進をかましてくる戦いがいのある奴。

それがなんと4体、ありがとうございます。




「だ、誰か助けて…。」


トドメとばかりにビックボアの一体が豪快に青年へ向けて前足を踏み降ろそうとしていた。

絶望と諦めが渦巻く青年は、目を閉じて終わったと呟いた。




「お待たせ、もう大丈夫!」


彼の元に届いたのは、身体を踏み潰す感触ではなく可愛らしい女の子の声。

そんな絶望的な状況での予想外な事に閉じた瞳をまた開けた。


そこには眩くも温かい光を放つ少女が立っていた。

少女はその小さな身体でビックボアの踏み降ろしを受け止めていた。

不思議とビックボアに吹っ飛ばされた痛みは感じず、ただただ目の前のありえない光景に驚くしか出来ない。



「………天使?」


「うへー女神の次は天使かぁ。残念ながらただの聖女だよ。」


苦笑いを浮かべる少女は、よっこらしょと言いながら魔物の前脚を押し飛ばす。



次々と目の前で起こる驚きの中、黒髪の青年は不覚にも別のことに視線が動いてしまった。



あそこのおじさんはどうして涙を流してお祈りをしているんだろう?




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