誰かに似てるって言われない?



どうにか間に合った。

ビックボアちゃん達に囲まれた状況は変わらないけど、一人の生死を変えることは出来たから良し。

更に傷だらけだった身体も治療出来て尚良し。


登場して数話経つのに名前が出てなくて少し寂しい思いを心に抱えていた護衛騎士のトールさんに指示を出す。


「トールさん、そこで祈る信者を連れて離れて!こいつらは私の獲物だから、取っちゃだめだからね!」


「め、女神様、名前を…。かしこまりました、ありがとうございます!」


実は名前を覚えてもらえてないのではと心の中で葛藤していた護衛騎士のトールさんは、喜びで涙を流して近くで祈る変態おじさんを引き摺っていく。


移動していくのを確認したらやっとこさ戦い。この間にも突っ込んで来ていたビックボアちゃん達を全員手や足で留めていた。


「お兄さんはもう少しそこで蹲ってて下さいね。」


「え、あ、はい!」


ずっと続くこの光景に驚く青年にパチリと片目を閉じて大丈夫と一声掛けとく。


「よし、お前たちいっぱい遊ぼうね。」


その言葉と同時に抑え込んでいたビックボアちゃん達を最初に押し飛ばした子の所へぶっ飛ばした。

せっかく起き上がろうとしてたのにごめんなさい。



衝撃が少なかった一体が急いで体勢を立て直し、怒り狂った愛くるしい顔で土煙を上げながら突進してきた。


なんだが嬉しい。

俺を本気で殺そうとしてくるその威圧。こんな時、本当に生きてるって感じがするね。


俺はつい嬉しくて迫りくるボアの眉間目掛けて思いっきり拳で突いちゃった。

どなたかの骨が砕ける音がした。見た目で考えれば砕けるのは俺、でも砕けたのはボアちゃん。小さい頃から岩や鉄を殴っていたから鍛えられている。皆もやってみてね。

 


ちょっと清楚な乙女らしくない力技だったけど一匹目を沈めた。残りは三匹。

けれど、先程の光景を目撃した三匹のボア達にはすでに戦意が無くなっていた。


俺を見る目がヤバイ奴を見る目に変わっている。もう失礼ね、俺はちょこっと力が強いだけの女の子なのに。



ブモゥブモゥと互いに鳴き合い俺とは反対方向に仲良く走り出した。

俺は追わない。


戦士として戦意を失った者に手を出すつもりはない。殺る気のある奴としかやりたくない。

それに今回の依頼は薬草採取、討伐じゃないからね。


逃げ出した三匹にお別れをして後ろを振り向く。


「ね、大丈夫だったでしょう。」


「は、はい、ありがとうございます!」


俺は改めて助けた青年を見る。

とてもしっかりと見る。

顔が赤くなっていく青年を気にせずがっつりと見る。



どうしてかって?

それは彼の容姿がとても気になったから。

黒髪で黒目。

少し垂れ目でアイツよりかは親しみやすそう。


凄く勇者の特徴とそっくりだ。

なので、自称引き出し上手のアリスちゃんと自負する俺はそれとなく質問してみる。


「ねぇ、お兄さんってとても珍しい髪型してるね。なんか、その最近話題の人と似てるね。誰とは言わないけど。」


「え、あ、その…。」


黒目がキョロキョロおろおろしだした。それとなく聞いたけど察しやすい人みたい。

もうちょっとそれとなく聞いてみよう。


「目も黒くてここらじゃ見ないね。なんかあの最近有名な勇ほにゃららみたい。」


「あ、あの…あ、う。」


やばい、余計にオロオロしだした。

俺もつられてオロオロしてしまう。


そこへ祈りを終えた変態的信者ことエルドさんがやって来た。


「ほっほっほ、お二人とも落ち着きくださいませ。とりあえずこちらの魔物を解体致しましょう。いつまでも放置していては他の魔物が寄ってくるやもしれませんからね。」


エルドのくせにまとも。

ひとまずこの森を出ることにしました。


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