出発と発散



朝を迎えて昨日のことを思い出す。

ちょっとした出来事でまた涌いてしまった信者達。

悪い事はしていないから潰したくとも潰せない。うー頭が痛い。

この年でお酒も飲めないのに朝から頭痛が。


この頭痛の悩みはこれからも長い付き合いとなりそう。


起き上がり隣を見ると、ぴくぴくと白目を剥きまだ眠りにつく姫様。

昨日は気疲れしてそのまま寝た。もちろん姫様もちゃっかりと添い寝。眠気が襲う中でちゃんと忠告して寝たけどこの子は駄目だったようだ。

俺の自己防衛本能をしっかりと反応させてしまう自体が寝てる間に起きたんだろう。


大丈夫と思うけど、自分の身体をぺたぺたと触って確認。うん、異常なし。今日も絶壁。

白目でいびきをかく高貴なお嬢様をそのままに朝食を摂りに行く。

もうアルフ達も揃っているようで仲良く朝食に注文しておいた肉を頬張る。


途中から復活してしまった姫様も合流し朝食を終えた。



食休みを挟んだらもう出発だ。

この休憩の合間にちょっとアルフに相談。多分、出発時に信者達が送迎するかもってね。


信者問題を話せばアルフも一緒に頭を抱えてくれるだろうと思ったら、そうかの一言で終わりやがった。


やけにあっさり。聖女困っているけども。


「お前の信者は敵対しなければ問題ない。送迎に関しても心労はお前だけ。ぶっちゃけなんか怖いあいつらと関わりたくなあだっ!?」


「ひ、酷いです!こ、こんなにか弱い少女が困っているのに…うぅ。」


「ぐうぅ…困っているか弱い少女は人の頭蓋骨の骨を片手で軋ませないぞ!」


俺の悲しみを王子様に十分に味わってもらい、いよいよ観念して出発開始。



宿屋を出る。辺りを見回すが人がいない。信者化した住人達がいないのはホッとするが静か過ぎる。でも、この先に続く道からは沢山の気配を感じる。この道は町の外へと繋がっている。


い、行きたくねぇ…。


気持ちが拒んでも行かねばならない。シーナさんとスゥ様に背中を押される形で馬車に乗り込む。



馬車は進み出してしまった。

少し進めば見えてきた信者の道。

女性や子供、ご老人は小さな旗を持つ。

男性は一人もしくは数人でとても大きな旗を持つ。旗には『頑張れ聖女!』だったり『我ら女神の道が正義なり』など過敏で過激な声援を送ってくれる。


「お姉様、良い道ですね。」


姫様の目は残念ながら腐っているらしい。

再発した頭痛が痛い。


「お前らぁっ、偉大なる聖女様の出立であるもっと声を出せぃ!!」


「「「うおおおぉー聖女様バンザーイ!!!」」」


不治の病に侵されたエルドが更に頭痛を悪化させる。

元気に旗を振りやがって…お前が広めなければまだ被害は少なかったはずなのに。


俺は心の中で神様にごめんなさいしてお小遣い用に持っていた硬貨を手に取る。



そして、エルド野郎さんに狙いを定める。

今までのお世話になった思いを込めて身体強化を意識的に掛けて弾く。

威力は聖女のお墨付き。


私の想い君に届け


硬貨は決して減速することなくエルドさんの顎へとお支払いされた。


「有難き幸せ!!」


満足そうに彼は逝った。

心配はしない。


どうせまた蘇ってくる。

とりあえず今はスッキリ出来ればそれで良し。



それでは聖都に参りましょう。


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