ねずみ講式感染



治療はする。

それに後悔はない。聖女って立場もあるし理不尽に苦しむ姿を無視するなんで出来ない。

けれど、目の前に広がってしまった光景は俺の頭を痛くさせる。


キラキラと目を輝かせ跪き、尊敬というか崇拝というか祈っている人もいるし…。

あぁ女神様と涙を流し呟く者さえいる。


もう何度目かの二の舞。


ちょっと古傷を治しただけだし、ちょっと手足を生やしただけ、ちょっと目を見えるようにしただけ。


この力なら当たり前に治せることでこんな感動されても困る。


「さすがにお姉様のその認識はおかしいかと…。」


姫様が小さくなにかぼやいた。

そんなことよりどうしようこの民衆。

他所の国まで感染者が続出するとは思わなかった。これもしっかりと治療をしなかったこの国の聖女のせいだ。出会ったら文句言ってやる。


もう夕方。

宿屋に帰りたいのに帰れない。いつまで経っても信者になっちゃった人達が祈りを捧げ続けている。かれこれ数時間経つけど仕事とか夕飯の支度とかいいの?



困っている俺を救うべく立ち上がった二人の人物が居た。

一人はアリス教創始者の一人で人々から女神の伝導者と呼ばれる男、その名もエルド。

そして、もう一人は幼いながら熱狂的な信仰心からアリス教の司教に抜擢され、またお姉様親衛隊の第2席に座り、またお姉様喰らい隊の戦略主戦力部隊大隊長を務めるスフィア様。


そんなものが出来てる事も知らないアリスの前にしれっと立ち、跪く人々に告げた。



「皆のものよく聞くのだ!我らが女神たる聖女様の御力に触れ、その慈悲に感謝し喜び涙したことだろう。私もよく分かる、アリス様が御力を使う度に私も何度も涙を流すよ。だから、お前達がずっと祈りを捧げ続けたい気持ちも分かる。」


うんうんと姫様が同意している。

残念なことに俺には分からない。皆が俺を女神認定しているのも分からないし、もちろん祈りを捧げたい気持ちも分からない。


「だかしかし!我らが聖女様はこれからも歩みを止めることなく憂いに哀しみに苦しみに…そして絶望に打ちひしがれる者たちを救い進むことだろう。そんな御方の足を現在進行形で止めているのは不敬ではなかろうか?どうであろう皆のものよ!」


はっと自分の愚かさに気付きましたみたいな顔をする民衆達。

なんだこれ…。


もう疲れてきた俺をよそに今度はスゥ様が発言する。


「皆様ようやくお気づきになられましたね。祈りを捧げることはとても重要なことではございます。しかし、お姉…こほん聖女様のため真に重要なことは陰から見守り、この手をこの足をこの耳を、そしてこの目を聖女様のお力添えになるよう使うことでございます。お分かり頂けましたか?」


分かりません、違います。

自分の身体は自分や家族の為に使って下さい。

でも、そんな想いはもう彼ら彼女らには届かない。


そして、何処からともなく溢れる崇拝。


「「「聖女様バンザーイ!聖女様バンザーイ!聖女様バンザーイ!」」」


くぅ…皆の俺を見る目が眩しい。純真無垢な赤子のよう。


「よし皆のもの、我らが女神である聖女様の為の道を作ろうぞ!えいえいおー!」


「「「えいえいおー!!!」」」


会って少しの人達なのになんとも統率の取れた動きで道が作られていく。


「お姉様では行きましょう。」



姫様が恭しく手を差し伸べる。

もう完全に疲れ切った俺は仕方なく手を取り歩く。


左右からひっきりなしに聴こえる聖女様万歳。



「よしお前達、この後アリス教の教えを説いていきます。またこちらに集合するように!」


やけに生き生きとした馬鹿エルド野郎の不穏な声が聞こえた。

今日は疲れて殴る気力もない。後日に持ち越しとしよう。



明日の出発が怖い。


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