消えた布は使われた



軽い運動で生まれた汗臭さをちょっと気にしつつ、一階で待つ皆と合流した。

スゥ様の言う通りもう全員が揃っていた。

なんか待たせる形になって申し訳ない。



あれ?

シーナさんがいる。


「あれシーナさん、姫様にお会いしましたか?」


「?いえ、会っておりませんが…。スフィア様に何かございましたか?」


「ん?いえ、なんでもないです。」


スゥ様一階に続く階段とは逆方向に走ってたもんなぁ。

まだ渡せてないみたい。


案外、おっちょこちょいだね。

仕方がないからシーナさんに洗濯物の件を伝えておいた。

どうして伝えた途端、彼女が遠い目になったのか俺には分からなかった。



そして最後のスゥ様待ちをすることしばし、ようやく艶々テカテカなお姫様がとても満面な笑顔で降りてきた。

どことなくスッキリしたご様子。


「皆様、お待たせして申し訳ありません。」


あんなに愛嬌のある笑みで言われると怒るに怒れない。皆、苦笑いを浮かべながら許していく。

俺とシーナさんが一緒にいるのを見たスゥ様はトコトコと寄ってきた。


「呼びに行った私が一番遅れてしまいました、てへ。」


頭に手を当て舌をチロリと出す。

はい、あざと可愛い。


「ごめんね、私の洗濯物をシーナさんに渡すために探してくれてたんだよね。」


「え、あ、はい、そうれす。」


少し噛んでも可愛い。

流石は姫様。


「もうシーナさんと会ったし、私がお願いするよ。」


「いえいえお姉様、これはせっかくの私のお仕事です。最後までやらせてください!」


お手伝いを頑張る妹はフンフンと鼻から吐息を漏らし、すぐそばのシーナさんの腕を掴み隅へと連れて行く。

ここで渡せば良くない?


何を話しているか聞こえないけど、汚れた布を渡すのにあれほど話し合いをするものだろうか。

そ、そんなに汚れてないと思うけど…。


時折、『抽出』や『瓶』、『保存』とよく分からん単語が聴こえた気がする。

洗濯一つにも並々ならぬこだわりがあるのだろうか。



話し合いが終わったようで戻って来た。

スゥ様はこれまた元気一杯に。

シーナさんは……どうして申し訳なさそうに俺を見るの?


ねえどうしてと尋ねても目を逸らすだけ。

言いようの無い不安が胸を過ぎるも、アルフの飯に食いに行くぞの合図で霧散した。


この将来性が高いと思いたい胸のざわめきは気のせい。


今は絶壁なそれをさすりつつ、高級宿に併設された高級飯屋に移動。

聖女で無かったら入れなかったであろう高級店。

次々と出てくる料理もワイは一流やぞと主張しているみたいに品がある。

でも、俺は聖女になってからフォークやらナイフの技術を鍛えた。

まだ淑女の頂に足を踏み入れた段階。

それでも、俺は聖女っぽく礼儀を持ってガツガツと食べる。


高かろうが安かろうが肉は美味い。


一瞬、頬張る俺に不快な視線が送られたけど周りを見渡した時には消えていた。

代わりに両頬をパンパンに膨らませた俺を呆れたように見るアルフと目が合った。


…………なんだよ、こっち見んな。



お淑やかなレディーの食事を眺めるなんて失礼しちゃう。

俺は乙女だぞ。



また鼻で笑われたので食事後殴りました。

吐き出さない程度に抑えたのはレディーな俺の優しさです。



あとは、お風呂に入ってお休みなさい。



今晩はどうしてかスゥ様が忍び込んで来ることはありませんでした。



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