聖女の汗は蜜の味
齢10歳。
はじめての高級宿に泊まった。
王城や最近だと貴族の屋敷に泊まった経験もあるから平気だろうと高を括っていた。
でも、それは甘かった。
アルフが俺の貞操とやらを配慮して個室にしてくれたのだが、どこが一人用の個室なんだと思うほど広く俺の手に余る。
王城とかはちゃんと庶民派の俺の事を考えて小さめの部屋に案内してくれてたんだと改めて思う。感謝もしとこう。
色々と高そうな美品やらなんやら置かれていて殴ってしまわないか心配だ。
夕飯はこの宿に併設されたこれまた高級店で皆で食事。呼びに来るそうでそれまではお部屋でゆっくりするようにと言われている。
だだっ広い部屋でとりあえず置かれたソファにでも座る。
………暇だ。
スゥ様辺りがやって来るかと思ったけど来ないな。
その頃、お姫様は作戦の練り中。
勝手に外にでも出たらアルフお母さんやノートンお母さんの説教が待っているだろう。
仕方がないやる事が無いなら指立て伏せでもしとくか。
少しの合間でも自分の身体を鍛えておこう。
俺は流れる様に逆立ちして全体重を指だけで支える。
夕飯まで一、ニ時間。
気長にのんびりとやっときます。
「ふっ…ふ、ふ…。」
「お姉様、シーナさんに代わって私がお呼びにまいりました!…ってお姉様!?汗だくつゆだく!」
逆立ちして汗を流す俺を見てびっくりしたようだ。
ただの運動にそんな驚かないでほしい。
そのままスゥ様はどこかへ駆け出したかと思えばすぐに戻って来た。
彼女の手には白い清潔そうな布。
「お姉様、どうぞこちらをお使い下さい。」
「うん、ありがとう。」
普段は少しばかり変態を加速させる女の子だけどこういう気配りを怠らない優しさがあるから憎めない。
俺は感謝しつつ汗を拭う。
「はぁお姉様、汗を拭った布は私に。私が後ほどシーナにお渡ししておきますので。」
「ん?別にこれくらい私がちゃんと洗濯して返すよ?」
これでも村娘。
何年も自分の衣類は洗濯してきた。
「何をおっしゃいますか。シーナさんは私達の身の回りのお世話係です。勝手に仕事を奪ってはいけませんよ。」
「そういうものなの?」
「そういうものです。」
ちょっと気が引けるけど、仕事を奪うのは本意じゃない。
暇は辛い。
「じゃあ、シーナさんに渡してくるよ。」
「いえいえ、私が渡しておきましょう。」
「いいよ、お姫様にお使いみたいな真似事をさせてはいけないでしょう?」
「いえいえ、このくらい誰も気にしません。それに私はシーナに用があるのでついでに渡すだけです。効率です、えぇ効率です。」
頑なに効率を重視してくるなぁ。
そんなに言うならお願いしようかな。
「じゃあ、お願いします。少し汗で湿って気持ち悪いかもだけど。」
「私は気にしませんむしろごほ……こほん、大丈夫ですよ。じゅるり…おっと、私も汗が。」
口から出たそれは涎って名では?
「ぐふふ、ではお姉様、私はシーナに渡してまいりますので先に集合場所へ行ってて下さい。一階に降りたらすでに集まっていますので。」
「うん了解。呼びに来てくれてありがとう。先行ってるね。」
「はい!」
元気な返事をしたかと思えばこれまた元気にうひょひょひょと廊下を駆けていった。
姫様はわんぱくだねぇ。
さて一階に降りるか。
出来ればお風呂で汗を流していきたかったが、もうすでに集まってきているなら余り待たせる訳にはいかない。
ちょっとだけある乙女心が稼働して自分の身体の匂いを嗅ぐ。
うーん、少し汗臭いかな?
もし誰かから臭いって言われた殴ってすぐに風呂に入れば良いや。
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