可愛い子が強引に旅をしようとする



これは聖女様が旅する数日前。


王城にある談話室で話をする二人の親子。


「アルフよ、教国での交流会ではしっかりと自分が次期国王だと印象付ける立ち回りをするのだぞ。」


「はい父上、十分に意識して学んでまいります。」


「うむ、しかと励め。まあ、あと聖女殿の事も頼んだ。多分、教国ではお前が一番共にいる時間も長いだろうしな。」


「はぁ、はい頑張ります。勇者との挨拶は短めにしてみせます。殴り込ませない蹴り飛ばさせない首締めさせない、この3原則に注意します。」


二人の親子の頭の中では少々勝気な聖女様が腕をブンブンと振り回す姿が想像される。

やはり血が通う親子、溜息もピッタリと合う。


そんな二人の溜息を吹き飛ばすように談話室の扉が吹き飛んだ。


「お父様、脅は……こほん、お願いに参りました!」


別の悩みが意気揚々とやって来た。


「スゥよ、扉は足ではなく手で開けるものだぞ。あと、脅迫って言った?」


現れた娘は金貨数枚を弁償代にテーブルへ置いて、照れたように恥じらう。


「お父様、申し訳ございません。つい力んじゃって、てへ。」


娘だけど可愛い娘だけど殴っていい?

これ説教だから殴っていい?


形容しがたい苛々で震える父親を息子が懸命に宥める。


「あ、ありがとうアルフ。それでスゥよ、お願いとはなんだ?」


「はい、今度の交流会私もお姉様とご一緒に参加します!」


お願いというより宣言では息子は思った。


「それは駄目だ。もう交流会に参加するのは聖女殿とアルフに決まっている。」


「お、お父様、お願いしますぅ。」


うるうるといつの間にか瞳を潤ませ上目遣いでお願いする。

妹はあざといなぁと息子は思った。


「だ、駄目!そもそも一度に王族二人を行かせて何かあったらどうする?もし行かすとして護衛もそれ相応にしないといかん。そうすれば、お城の警備が若干手薄になる。わざわざ二人も行かす道理が無い。」


正論の正論。

でも、恋する乙女に届かない。


「お父様、お城の警備はお任せ下さい。この王都中にいる私の同志達がしっかりと見て下さいます。それに今の兵士達の練度なら問題無いと言えましょう。」


「ぐぬぬ…。」


確かに巡礼での苦い経験が他の兵士達にも徐々に伝わり、訓練量も以前よりも多くなり強くなっている。

それに聖女様を狂愛する信者達が居るから大丈夫、凄く頼もしく聞こえてしまう。


「し、しかしもし道中お前達に危険が及べばどうする?」


娘がやれやれと呆れたように息を吐く、殴りたい。


「お父様、そもそもこの国で最も強い聖女様との旅です。お姉様の側が一番安心安全最高の興奮ものですわ。」


た、確かに…。

で、でもぉ…。


お父さんお悩み中。


「お父様お願いいたします。」


ん、お願いしながらお父さんの頭を掴むのは何故だい娘よ。


「お父様お願いいたします。どうか潰す前に慈悲のある決断を。」


過激派な我が娘。

これが思春期とは思わない。


「ぐすっ…お父様ぁ、お願いいたします。」


鼻をすすり涙ぐむ娘。

お願い、頭が割れそう。

そこの目を逸らす息子よ、助けて。







「ありがとうございました、お父様。すぐに準備しなくっちゃ。」


元気よく娘が出ていった。



やっぱり将来を考えればスゥも見聞を深める必要があるだろう。この旅を通じて娘達が一皮も二皮も剥けることを期待しようではないか。



け、決して脅しに屈した訳ではないのだからな。………無いのだからな!



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