準備と同行と出発を
5日後の出発に向けて周りが一段と騒がしくなり始めた。
俺の準備は簡単でも他はそうはいかない。
今回は巡礼の時とはまた違う。
自国ではなく他国で距離も遠い。
それに同行者には馬鹿がいなくなって王様候補になっちゃったアルフもいる。
次期国王を他所の国に旅をさせるなんて危険と思うけどこれも見聞を深める為だってさ。
王族も一緒とあって俺が聞かされた以前から準備を始めたようだけど、それでもドタバタ。
賑やかな旅になりそうだ。
でも、今度もまたロコルお姉ちゃんがいないのは寂しいな。
チュンチュンチュンチュンチュン。
小鳥が5回鳴いたらもう出発の日。
旅の朝にはぴったりな快晴。
背筋をうーんと伸ばして王城へ。
着いて待っていたのは自分の体長の2倍はあろうかというくらいパンパンに詰め込まれた皮袋を背負うこの国のお姫様。
表情は鼻息荒く興奮している。
「お姉様、それでは行きましょう!馬車の中で私達の愛を深めてまいりましょう!」
「お、おう…。」
とりあえずいつでも羽交い締め出来るように待機しているアルフに目線を送る。
スゥ様も同行するの?と目で確認する。
大きな溜息で返事をした、なるほど。
「愛を深めるかはさて置いて、楽しい旅行になると良いですね。」
「はい、楽しみです!」
「お前ら、旅行じゃなくて大事な交流会だからな…。」
どこか諦めた様子のアルフが一応忠告した。
分かってますよ、ちゃんと他の聖女や勇者ってのと交流もするって。
馬車は全部で3台。
一つは俺とスゥ様とお世話係のシーナさん。もう一つはアルフと前に会った公爵のフォルクスさん。フォルクスさんは外交的な役割で選抜されたらしい。俺ら子供のお目付け役だったら可哀想。
で、3台目は荷物置き場として用意された。誰かが膨らませた皮袋が強引に押し込まれている。いったい何を入れているのやら。
そして、今回の護衛を務めるのはなんとガルム団長が率いる部隊。またノートンかと思ったけどノートンは部下として率いられる側。
ガルム団長が直々なんて大仰な気がする。
お城の警備は大丈夫なのだろうか?
「ねぇスゥ様、主戦力っぽいガルムさんを王国から離して大丈夫なの?」
「ふふ、大丈夫です!」
あら元気いっぱい、可愛らしい。
うん、深く考えても俺には分からん。最近の兵士達は何故か意欲的で沢山訓練してたし心配ないのかもね。
王様が考えて編成したんだろうし、一聖女が悩むことじゃないか。
旅のお供をするフォルクスさんやガルムさんと愉快な仲間たちに軽く挨拶を済ませていざ出発。
馬車が動き出しふと思う。
巡礼の時みたいな出立式が無い。
俺としては無くて安心。
「今回は国民に交流会の事は伝えてないんだね。」
「お姉様ご安心を。私達のお姉様に関する五感は人智を超えます。わざわざ伝えずとも伝わっています。」
意味不明。
でも、なんだかゾワッとした。
や、やけに外が騒がしいなぁ…。
馬車の小窓から外を見渡せば、王都中の人々が集合したかのように溢れかえっていた。
でも、しっかりと道は作られていた。
相変わらずの統率ぶり。
「アリス様行ってらっしゃいませ!」「我らが女神様バンザーイ!」「お、お姉様ぁあミーナをおいでいがないでぇー!」「嬢ちゃん、俺に出番をよこせ!」「スフィア司教様、他国でもしっかりとお広め下さいませー!」
誰がどれを言ったか分かるかな。
凄い、半分以上の声援がまともじゃない。
見知った女の子が目や鼻や口から液体を撒き散らし馬車と並走して追いかけてきてる、う、頭が痛い。
あと、スゥ様、司教ってなに?
ねぇねぇ、何の司教になったの?
ねぇねぇねぇ、目を逸らさないで教えてよ。
「お姉様、レディーに秘密は付きものですわ。」
殴ったら吐いてくれる?
むしろ本望とどっしりと顔を差し出したので殴るのは止めました。
結局、まともな送り出しをしたのはロコルお姉ちゃんだけでした。
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