少女は止めてと叫ぶも
俺の教国行きが決まった。他の聖女や強いらしい勇者に会えるってのはちょいと楽しみだ。
似た者同士仲良くやってければ幸い。
そして、現在俺は不幸いな真っ最中。
どんなに懇願しても彼女達は許してくれなかった。
今、俺は生まれたままの姿一歩手前ですこぶる笑顔の王妃様とお姫様に大量のニコニコメイドに囲まれている。
残念ながら逃げ場は無い。部屋にはこれから俺に着せるであろう沢山の衣装で埋め尽くされ、希望となる出口が見失って分からない。
「あ、あの私には白いドレスがありますから、ありますから!」
2回言った、大事なことだから。
「あら駄目よ、アリスちゃん。不本意でしょうけどアリスちゃんはこの国の代表として教国に赴くのよ。ドレス1、2着で済ますなんていけないわ。」
「ぐっ…。」
「そうですよ、お姉様。ただのお姫な私でも何十着もあります。本来なら聖女で超絶可愛いお姉様は少なくとも私以上でなければありません。」
「そ、そうなの?」
「はい!ですが、今回はそれを数着で抑えましょうってことです。ね、お得でしょう?」
「お、お得な気がしてきた…。」
何十着よりも数着だけで良いならお得!…な気がする。
「じゃあ、テキトーに見繕って…」
「「「なりません!!!」」」
こ、怖いよ。
メイド達まで目をクワッとさせて怒鳴らないでよ。
「で、でも私ドレスとかよく分かんないし…」
「お姉様、私達にお任せ下さいませ。全てを委ねて下さい。」
「そうよ、アリスちゃんは天井の染みを数えていて。その内に終わらせちゃうわ。」
「「「そうです。ええ、優しくしますとも、しますとも!!!」」」
……………王城のお部屋は綺麗で天井に染みなんて無かった。
何時間にも渡る少女強制着せ替え事件は犯罪として成立する事なく終わってしまった。
長時間の間、大量の女子力にあてられた少女は瞳から光を失った。呆けたように無防備に口を開き、まるで屍のようだ。
そんな少女とは裏腹に満足げな一団。心なしか髪はツヤツヤの肌はヌベヌベとやり切った感が凄い。
「若いっていいわー。」
「お姉様……たまらねぇですわ。」
「「「これだから、メイドは止められねぇぜ!!!」」」
「あ…あ……あ…。」
とぼとぼと少女はお城を後にした。
今日はなんだか馬車でなく歩いて帰りたい気分。
なんでかな、なんでだろう。
一人になりたかったの。
その哀愁漂う少女に流石の崇拝者達も陰でお祈りを捧げるだけで留めて行く。
でも、最近出番がめっきりなく裏社会の首領で序盤は少し登場してまた出たいと何処かの誰かに願うブラッドだけは思わず声を掛けた。
いつも笑顔ばかり振り撒く少女が死に際のように元気がない、それは心配にもなる。
「よ、嬢ちゃん。どうした?なにかあったのか?」
「う?うぅ…ブラッドしゃん。」
涙ぐむ聖女様。
これには最近出番が無くて嘆く裏社会の首領もびっくり。
「おいおい穏やかじゃねえな。とりあえず、屋台で飯奢ってやるから泣き止め、な?」
「へ、よっしゃあ!ありがとうございます、ブラッドさん!!」
女心男知らず。
コロコロと単純に変わる彼女の心は愛しいお肉様でもういっぱい。
嬉しさのあまり目の前の救い人へ思いっきり抱き着く。
もう少し前の悲しみはか弱い乙女の心に残っていない。
最近とんと出番が無くて上目遣いでお願いしたいブラッドはいつもの聖女に戻った安心とあらゆる方向から突き刺さる嫉妬の殺意に四苦八苦。
でも、これで出番が増えるなら彼は奥底で思うのであった。
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