姫と聖女の珍道中
信者達の熱烈な声援に送られながら俺達は教国へと進んでいた。
けれど、前回のように退屈な旅となることはない。
なぜなら、同じ戦闘好きのガルム団長がいる。堅物ノートンと違って、もし魔物が現れても俺に少しは譲ってくれるだろう。
一応、片目をパチリと頼むねと合図を送っておこう。
早速、ウルフが数体出現した。
騎士団主戦力と俺と姫様と過剰戦力に挑む脆弱な魔物たち。
圧倒的戦力差でも戦えるなら問題ない。
さてさてと参加しますかと馬車を降りると、そこには目を疑う光景が。
なんとガルム団長が一人特攻してあっという間に終わらせていた。
そんな同じ思考回路のお仲間でしょ…。
「ど、どうして…。」
わなわなと渦巻く疑問を口から零す。
「え、聖女様に戦闘させるのは駄目だろう……ってのは建前で目の前の獲物を態々他に譲ると思いますか?」
「ぐ、ぐぬぬぬ…。」
ぐうの音も出ない。
俺も絶対譲らない。
唇を噛み千切りそうなほどの悔しさを背負い馬車に戻る。
戦ってもないのに負けたようにがくりと顔を伏せた。
それを見たスゥ様が好機とボソリ呟いたと思えば、十分ゆとりのある空間で肩と肩が引っ付くほどにじり寄って来た。
「あぁ、お姉様可哀想に!せめて私が少しでもその哀しみを癒やしてみせます。」
うん、落ち込む俺を慰めてくれるのは有り難いけど、なんで唇を近づけてくるの?
「昔からお姫様からのチューは活力剤と言われてますので…。」
はいそうですかと俺の唇は奪わせない。
意外と力強いちびっ子の顔面をグググと押し離す。
シーナさん、苦笑いしてないで引き剥がすの手伝ってよ。
どうにか引き剥がしは成功。だが、奴の獰猛な瞳は未だ衰えず。
そう俺は今後の日程を詳しく知らなかった。
夕方頃、シーナさんが何気なく放った一言が教えてくれた。
「本当にこの近くは町も村も無いですね。野宿なんて久しぶりです。」
の、野宿だと…。
い、いや野宿なんて昔から慣れっこ。
慣れっこだけど、隣には肉欲獣が舌なめずりをして待機している。
これには俺の防衛本能もお隣さんやべぇと囁く。
「お姉様とお外とはいえお泊まり出来るなんて嬉しいです。」
そ、そうだよ、お城でもちょこちょこお泊まり
してたし大丈夫だろ。
「お外は開放感があってはっちゃけちゃいそうです!」
開放感で呼吸音がハァハァに変わるのはどうかと思うな。
そして、野営準備が始まった。
寝る時は護衛の騎士達は外で、俺達立場は偉いぞ組は馬車の中。
嫌だな、密室だよ。
運命の就寝まであとわずかという時、ウンウンと唸る俺の元にお兄ちゃんのアルフがやって来た。
「そんなに悩んでどうしたんだ?」
「いや、実はね…。」
ここはかくかく云々で伝える。爺ちゃんが教えてくれた伝達法だ。
不思議とアルフにも伝わり、妹が申し訳ないと頭を下げてきた。
王族がそんな簡単に頭を下げちゃ駄目だぞ。
「あれは聖女様の力でも治らん病を患っているもんだからなぁ。」
「あぁ…。」
分かる分かる。その不治の病は王国中に広がってるからね。
しばしアルフは悩む仕草を見せた後、真っ直ぐに俺を見つめる。
アルフごめん、俺は強い奴が好きだから。
「………はぁ、もしスゥが寝込みを襲って来た場合には絞め落とす権利を与えておく。」
実の妹の意識を刈り取る権利を頂きました。
恐怖の夜の始まりだ。
教国はまだまだ先なんだけどなぁ…。
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