聖女アリスの個人レッスン
今日の俺は気分が良い。
ふふ、なぜならノートンとの稽古が待っているからだ。俺と同じように力の高みを目指したいと考えている同士が誕生したんだもん。
これほど嬉しいことはない。
でも、まだ迷子の珍獣探しの疲労が残っていることだろう。相当危険な場所での調査みたいで毎日怪我をしてたからね。しばらくは基礎を徹底的に鍛えよう。
以前、トーラスさんに俺の訓練は常識から背を向けてますねと言われたことがある。アルフの護衛とか騎士の仕事もまだまだあると思うし、軽めの無茶でない範囲にしとこう。
俺の住まいである教会に早速ノートンがやってきた。
少しやつれている。やっぱり仕事疲れが溜まっているのかな。訓練前だけど聖女の力で疲労を癒やす。
「安心してノートン、どんなに疲れても俺が治してあげるからね。」
「あ、はは、ありがとうございます…。」
引き攣った表情で乾いた笑い。
なんか嫌なことでもあったのかな?
アルフ辺りが王族っぽく我儘でも言ったのかもしれない。今度、一発いっとくか。
「ノートン任せといてね(アルフを殴るの)!」
「え?あ、はい(今日から稽古)よろしくお願いいたします。」
やっぱりアルフのせいか。
次に会うのが楽しみだ。
教会の裏にある小さな庭。
この地に来てから大分お世話になった運動場だ。
さあ、やりますか。
「では、早速始めましょうか。」
「はい!」
ノートンも疲れた顔を押し殺してはっきりと返事をした。うんうん頑張ろうね。
「今日は初日だし基礎から鍛えていきましょう。まずは腕立て100回をしましょう。」
「え、はい!」
ちょっと驚いた様子。
もしかして無茶すると思った?
これでもノートンの説教を経て自重ってのを身に着けたんだよ。
拍子抜けした面持ちでその場で腕立て伏せを始めようとする。
ちょっと、ちょっとそれじゃあ駄目だよ。
「ノートンノートン、まずは親指2本からだよ。」
「は、はい!………え?」
もうそんな腕立て伏せだと岩石をも砕く拳は作れないよ。
「ほら早く親指だけで100回始めて。親指の次は人差し指、中指、薬指、小指の順番ね。もちろんそれぞれ100回で。」
「……ふ、ですよね。」
「安心してノートン。折れても俺が治すから。」
「はは、ありがとうございます。」
涙を流して嬉し泣きするノートン。
頑張り屋にあまり無茶はさせられない。俺がしっかりと補助をするから任せなさい。
感涙に浸りながら腕立て伏せを始めた。
でも、40回を超えたところでもう腕や指がぷるぷるしていた。
基礎が甘いみたい。
若いうちから王族の護衛をするぐらい早い出世街道。ちゃんと地盤を固める暇がなかったんだろうね。
腕立て伏せの速度が徐々に落ちていくものの、どうにか親指100回に到達。親指が辛そう。はい、治療治療。
ニッコリと笑って次に行ってみよう!
夕暮れから夜へと変わろうとする頃にようやく全ての指が終了した。
予定していた今日の訓練の3分の1しか出来なかった。あとは腹筋と走り込みって考えてたけど今日はもう無理だね。
ノートンは仰向けで天を仰いでいた。
時折自分の指をさすっている。
何度か体重を支えきれなくて折れたもんね。
俺もちっちゃい頃はよく折ったなぁ懐かしい。
あの時はまだ聖女の力なんて無いから無理矢理添え木をして爺ちゃんの後を追いかけていたっけ。
「大丈夫?」
「は、はい。アリス様の治療のお陰で無事でございます。」
「今日は初日だし仕方ないよ。徐々に慣れていけば骨も折れなくなるよ。最終的には指一本で出来るようにしようね。」
そんな絶望的な顔をしなくても…。
思ったよりも基礎が出来ていない自分に落ち込んだ様子。
初日なんだし出来なくて当たり前。だから、落胆しないですぐに小指一本でも腕立て出来るさ。
肩をポンと叩いて励ますもノートンは最後まで悲壮感が漂っていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます