元凶は何処へ




あんなに沢山俺達に会いに来てくれた獲物達はもう遠い彼方へと逝ってしまった。

俺は全然相手をしてやれなかった、ごめんよ。


俺が倒したのは奇跡的に軍勢から零れてきた一匹のゴブリンだけ。

申し訳程度に護衛達がご招待してくれたこの子のみ。

弱いものいじめ感が否めなかったので、すぐに逝ってもらったよ。

それ以外は治療。ずっと治療治療。

あとは無視して退治に行ったノートンを恨みったらしく睨んでいただけ。

ノートン、目を逸らさないで。



色々不満の残る戦いだけれど誰も欠けることなく乗り切ることが出来た。

でも、疑問が残る。

そうどうして突如としてこんなにも魔物がこの町を集中して襲ってきたか。

俺がうんうんと思考の海に潜っていると、ノートン率いる護衛と衛兵達それとヤルタ住民兼歴戦の猛者勢が戻って来た。



「アリス様、戻ってまいりました。みな無事でございます。」


好戦的信者達が褒めて褒めてと言わんばかりにこちらを見つめてくる。まるで尻尾をブンブン振ってご主人様を出迎えるわんこのよう。

ちょっとだけ息が零れる。


「私は嬉しいです。誰も怪我することなくもう一度皆様方と再会出来たことに。ありがとう、生き残ってくださりありがとうございます。」


「「「ぶるぅおおおお!!!」」」


もう魔物の姿はないのに士気が上がった。

自分達の手にする得物を天に掲げ吠え続けている。

今の彼らに一般市民だった頃の名残はない。

元の状態に戻ることを心から祈っております。




倒した魔物達は売れる素材部分だけは残し、後は燃やす。放置したままだと腐って酷い匂いが充満するもんね。

上位の魔物も多く剥ぎ取った素材達はかなりの額で売れるそうな。

なので町長筆頭に住人の方々が勝利を祝って大宴会をすることに決定。

この豪快さは前からだよね?狂信者になってからじゃないよね?



善は急げと一種のお祭りに向けて準備を始め出した。

俺も何か手伝おうかな…。

主賓はゆっくりお待ちください?

はい、分かりました。

いつの間にか治療しか出来なかった俺が主賓になっていたようです。

状況にやや追いつけずオロオロしていると、ノートンが近づいて来て耳打ちをする。

ゾワってするから普通に話してね。


「アリス様、魔物がこんなにも出現し襲撃してきた理由が判明致しました。」


「えっ、ノートンいつの間に!?」


俺がポケーっとしている間に捜査していたとは、さすがノートン。


「魔物がこの町に寄っていたのはこれが原因のようです。町の外に捨ててありました。」


「ん、瓶?」



ノートンが取り出したのはしっかりと蓋された瓶、でも中身は何も無い。いやほんの僅かに何か残っている。緑色の液体?ドロッとしてるから泥?


「この緑色の液体が魔物を強く引き寄せる香りを放つようです。ヤルタ在住アリス教信者兼薬屋のお婆さんが調べて下さいました。」


凄い聞き捨てならない部分があるけど今は我慢。

あの薬屋のお婆ちゃんが、オークの顔面を愉快そうに何十発も殴っていたあのお婆ちゃんが?


「はい、そのお婆さんがすぐに調べて頂きました。そして、お婆ちゃん監修の元これが掛けられた場所を探し水で流し消しました。」


お婆ちゃん様々だね。

あとで会ったらちゃんとお礼を言っとこう。


「じゃあ、もうさっきみたいな襲撃はないってことだね。」


「はいもう心配ないかと。それと面白いことにこの液体は町の外周だけでなくアリス様の乗っていた馬車にも付着しておりました。」


「へー、それは面白い。」


「明日にでも色々と知ってそうな連中を追いかけに行きませんか?」



ノートンからとても楽しそうなお誘い。

そうだね、沢山掻き回されたもんね。


「ええ、是非追いかけっこしたいです。ですが、彼らがどこに行ったか見当は?」


「ええ、おそらくアムネスでしょう。分かりやすくアムネスへと続く道には振り掛けて無かったですから。それにまさか我々が生きているとは、あの足りない頭では思っていないでしょう。」


ノートンの頭脳が冴えわたる。

まああいつ等もあの魔物の軍勢を町の住人達が蹂躙したとは思わないよな。

これで油断していてくれるなら好都合。



「シーナ殿が出発の準備を行なっていてくれたので明日にでも出発致しましょう。町長には私から伝えておきます。」


「うん、ノートンよろしくね。」


俺はノートンの前に拳を突き出す。

一瞬きょとんとしたが、察しのノートンも同じように拳を突き出しお互いに拳を合わせる。



「はい、お任せを。」




珍獣兵士達の終わりはもう近い。


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