呑めや騒げやさよなら
もう夕暮れ迫る時間。
今日は朝から晩まで騒がしい。
辛いことから楽しいことへと変わったからいいけどさ。
町の中心地の開けた場所には屋台がずらりと設置されて本日無料と看板が掲げられている。
そして宴会が近づくにつれ視界に映り始めてたけど無視していた場所に案内される。
王都でお披露目をした際、演説の為専用の台を設置されていたがあれより少し大きくテーブルと椅子が備え付けられている。
しかも、その台を町の人達が囲むように待機している。
誰をお待ちですか?
俺?そうですか。
あそこで座って食事を楽しんで下さい?
勘弁して欲しいです。
駄目?そうですか。
逃げようと後ろを向いた俺は、すこぶる笑顔なノートンとシーナさんに腕を組まれ連行されていく。
注目されながら食べれないよと訴えても主賓ですからの一点張り。
壇上へと続く階段を一段一段上がる度におぉと感嘆が何処からか漏れる。訳が分からん。
頂点に到着。
既に町長は上がっていたようで、引き摺られるようにやって来た俺を快く歓迎してくれた。
引き攣っている俺の顔が誰も見えてないのだろうか?
町長の横に誘導される。
宴の挨拶をするそうな。
「皆、今日は良く頑張った。これより祝勝会を始める。それでは、我らが女神から神聖なるお言葉を頂戴する。しかと聞き何世代先にも語り継がせるように!!」
「「「おおおおお!!!」」」
凄く町長を殴りたい。
俺は女神じゃないし神聖なるお言葉なんて思い付かない。
ひしひしと全方位から伝わってくる期待の込められたキラキラな眼差し。
凄く町長を殴り飛ばしたい。
とりあえずニコリと笑っとこう。
やばい、キラキラが増した。
背中に伝う冷たい汗が止まらない。
「え、えー皆様方、今日は朝から災難続きでしたね。でも、決して折れることなくそれぞれが誰かを想い懸命に戦い、こうして無事でいられたのだと思います。」
これぐらいじゃ駄目?
ちらりと辺りを見渡すとまだまだ期待の目は衰えない。
「こほん…勇猛なる戦士達よ、とても大義であった!聖女たる私が誇りあるそなた達に祝福を与える!」
っぽいことを言って、困った時の額から光。
苦し紛れの光の雨は思った以上に豪華絢爛で俺に集中していた民衆も空に描かれる神話の世界に見惚れている。
今の内に汗を拭おう。
「「「どうおおおおお!!!め・が・み!め・が・み!!」」」
止まらない女神コール。
だから、俺は女神じゃな…もういいや。
大熱烈な歓声からの大宴会が始まった。
よし、屋台に行こう。
自然な流れで壇上を下りようとしたけど、ニコニコシーナさんに阻まれ椅子に座らされる。
はい、主賓だからだよね。
でもさ、俺一人でここで食事って苦痛だよ。
町長も同席するかと思えば、女神様と同席など不敬ですからと頑なに拒まれた。
そう言って、俺を見上げれる最前列で食事を始めた。
なんか狡い。
気休め程度に護衛達が交代制で側に控えてくれてたけど。
ご飯を食べる度に何処からかおぉやら有難やと訳分からん言葉が零れ出てたけど、頑張って意識しないよう努めたよ。
なかなかの居心地の悪い祝勝会となってしまったけれど、本日の終わりを笑顔で迎えられたのだから良しとしましょう。
じゃあ、おやすみ。
そんでもってお早う。
ドタバタな昨日が終わって今日は出発の日。
アムネスへと向かいましょう。
運が良ければ、道中で容疑者達を捕獲と制裁が行なえるかも。
俺はいつものローブを装備をして馬車へと向かう。
馬車の置かれた場所から見える景色。
多分、絶対外まで続いてるだろうヤルタ町住民達の道が完成していた。
聖女になってから何度も見かけた人の道。
ちょっとだけ違うのは皆が跪いて待機していることかな。
うーん勘弁。
とりあえず馬車近くで胸に手を当て跪く町長もどきな信者に出立を伝えよう。
「それでは町長様、私達はアムネスへと出発致します。大変お世話になりました。次お会いするその時に皆様方が元気なままであることを心より祈っております。」
「………御意。」
町長?は恭しく頷く。
案外おとなしくて良かった。
ホッとしながら馬車に乗り込む。
なんてのは束の間。
狂信者(町長)がすくっと立ち上がる。
「我らが偉大なる女神様に栄光あれ!聖女様バンザイ!バンザーイ!」
「「「女神様バンザーイ!!聖女様バンザーイ!!」」」
そうだよ、この人達は感染者なんだよ。
俺の聖女の力でも治らない凶悪な病気を患っているんだよ。
俺は止められない止まらない聖女コールの中、ぎこちない笑みを浮かべ手を振りながらヤルタの町を後にした。
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