リートン五日間生活



尊敬の眼差しがちらほらあって気の落ち着かない屋敷だけど、ふかふかのベッドは最高だった。

今日から聖女活動の開始。


事前に俺達が訪問する患者達の重軽度を確認しておいてくれたようで町長直々に案内してくれる事となった。

同行は町長と見学したいと娘さん、そしてシーナさんに護衛の9人。

ノートンは何処かで酔い潰れている馬鹿にいい加減痺れを切らしたようで注意しに行くそうだ。

一応、王子の私兵だから強くは言い辛いみたいだが言うだけ言うらしい。俺は相手してないからあまり気にしないようにノートンへ伝えとく。



ノートンと別れ、町長達と重患者の住まう各家々にお邪魔する。

患者の怪我はなかなか酷い。付近で出没する魔物に腕や足を食い千切られた者や病で痩せ細く青白い顔をした者と多種多様。

付いてきた町長の娘さんも少し顔色が悪い。

当然だ、そうそう見慣れている光景ではない。

それでも、決して目を背けず俺の治療を真剣に見つめている。

町長の娘としての矜持かな。


治した端から感謝の言葉を貰いつつ、新たな患者の下へ移動する。

ゆっくりとしてるつもりは無いが、もうすでに夕方。俺としてはこのまま続けて治療をしたい。苦しんでいる人はまだまだ沢山いる、休んでいる暇は無いはず。


でも、治療に同行した全員から今日はもうお終いと決定させられる。

聖女様に無理はさせられないそうだ。

大丈夫なんだけどなぁ…。

とてつもない力を持っていても見た目は小さな女の子、心配するのも仕方ないか。


屋敷に戻ると、明らかに不機嫌なノートンが。


どうしたのと聞けば案の定あの馬鹿共の話。

宿屋で二日酔いに呻きながら眠る兵士達に聖女の護衛としてきちんと取り組めと忠告したらしい。

ちゃんとしているだろうがとか護衛の御礼にこの頭痛を治してもらおうかとか随分と傲慢な態度。

挙句には俺達はフリード様直属の兵士だぞ逆らう気かと宣ったとのこと。


ノートンは開いた口が塞がらない様子で邪魔だけはしてくれるなとだけ言って戻ってきた。

うんうん、よく頑張ったね。

俺は同情しつつ少しでも苛々を癒やされるよう聖女の力を行使する。


そして、一日目終了。

といっても、ここからはずっと治療ばかり。

二日目には無事重患者全員の治療を終えれた。

残りの三日間で他の病人も片がついた。各訪問ではなく一箇所に集まってもらったお陰で治療速度はかなり速い。

ただ毎回治療終えた人から次々に近くで俺に祈りを捧げるのは勘弁して欲しかった。ちっちゃい子供まで真似をしてるじゃん。



あとの出発までの二日間は盛大な宴が行なわれた。昼夜問わずお祭りのようで楽しい。

いくつもの屋台を発見。

ここでも屋台巡りが出来たのは僥倖だね。


あっという間にリートン訪問は終了。

就寝ぎりぎりまでお話して友好を深めた町長の娘さんには盛大に泣かれてしまった。

必ずまた会う約束をしてお別れ。


町の住人総出での何処かで見覚えのある見送り。

殆どの人が瞳に涙を浮かべ別れを惜しんでいる。

少し照れ臭いと苦笑しながら次の町を目指して出発。




三日目くらいからすっかり頭の中から抜け落ちていたけど、王子のお抱え兵士殿もちゃんと付いてきているようだ。


この調子で何事も無ければいいと願う。




しかし、少しずつそれは違和感となって非平穏を演出し始めた。

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