町長はすでに感染者



到着したリートンの町で一番大きなお家に馬車は停まった。

シーナさんによるとやはりここは町長の屋敷とのこと。

入口で待つノートンの手を借りて降りると、ずらりとメイドと執事、先頭に従者服でない人達が全員片膝をついてひれ伏していた。中には同い年くらいの子供もいる。


いきなりの光景に動揺を隠せない。

王城ですらこんな待ち方をしている人はいなかった。

どおりでノートンが苦笑いしてた訳だ。


「あ、あの…。」


「「「ようこそ聖女様!我らが町にわざわざお越し頂き真に有り難き幸せにございます!!!」」」



「お、おう。」


会っていきなり感涙に咽ばれました。

さすがに珍獣私兵団も引きつった顔でそそくさと馬を馬小屋に連れてってました。


とりあえず未だに跪くこの人達に立ってもらい自己紹介。

先頭に居た人達は町長一家でした。



丁重に屋敷の中へ案内してもらい、客間で一息。

俺はソファに促され座り、町長一家は地べたにまたもや跪く。

どうしてそうなる。


慌てて立ち上がらせて聞く。どうしてそのような対応なのか。


「私の知人にエルドという司祭がおります。ついひと月前にお会いし、その者から聖女様の素晴らしき逸話や尊き御心を三日三晩お教え頂きました。お陰で私達はいかに聖女様が女神様なのか理解出来ました。なので女神様に対して礼儀として跪くのは当然でありましょう。」


でしょうじゃない。

元凶はエルドさんかぁ。

余計なことを…。

こんなちっちゃい子供にまで狂信者の目つきにさせるなんてあの人でなし。ミーナちゃんやスゥ様で十分でしょうが。


これは精神病みたいなもの、聖女の力で治せないだろうか。


感染疑いのある屋敷の住人一同を集め、額を輝かせる。

幻想的な光りは見惚れる狂信者達を包み込む。

治れ、治ってくれ!



光が収まり声をかける。

すると、気を引き締めた顔となり綺麗にもう一度跪かれた。


「「「我らの心は聖女様のご意思にあり!聖女様万歳バンザーイ!!!」」」



どうしてこうなった。

なんでノートンもシーナさんもそうなると思ったって顔をしているの?



万歳三唱はしばらく続いた。



ようやく落ち着いてきた頃に跪く町長にこの町での今後の予定を伺う。

もう諦めたよ。


治療は町という規模なだけに5日ほど掛けて行なう。

初日と二日目で重患者を三日目からは残りの患者達。そして、治療完了後は二日の出立準備をして次の町へという流れ。

問題はその間の宿泊場所がこの感染者蔓延る屋敷ということ。

ノートンの諦めましょうという顔に唇を噛み締めてしまう。



少し憂鬱な俺はシーナさんと共に仰々しく案内され俺の寝泊まりする寝室へ。

中の入口付近に屋敷のメイドが一人待機。もちろん跪きながら。


小さな溜息を吐く俺に迫る恐怖ことシーナさん。


「ではアリス様、お着替えしましょうね。」


別にローブ姿のままで大丈夫きゃあっ!?

ちょ、そこのメイドさん助け、鼻血を噴き出しながら跪いてないで助けてよ!


ベッドで倒れ込んだ俺は真っ赤なドレスに包まれていた。

満足そうなシーナさんに起き上がらせて貰う頃にはもう夜。

このまま晩御飯だ。



鼻に布を詰め込んだメイドにまた案内されて食事の場へ。

幾ら何でも食事中も跪かれるのはやめてもらいました。でも、俺の食べる姿を崇め奉るように眺めるのは勘弁してください。



気の休まらない一日が終わった。

これから少しの間続くと思うと……はぁ、もう寝よう。


そういえば、あれの私兵は馬を置いた後すぐに呑みに行ったそうです。

あの人達、本当に何しに来たんだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る