巡礼開始
大広場での俺のお披露目会は終わった。
残るはここから馬車に乗って王都を出るだけ。
その前にローブに着替え直そう。
このドレス姿のままだと歩きづらいし恥ずかしい。
壇上同様に広場には簡易更衣室も設置したようで、にこにこなメイド達に両腕を掴まれて密室に押し込まれる。
自分で着替えれると自己主張しても彼女達はお構いなし。
着替え終わる頃には、何処か満足そうにホクホクとしたメイドと憔悴しきった俺が出てきた。未だに誰かに着替えさせて貰うことに慣れない。
もう馬車に乗り込もう。
ローブ姿になった俺に尚も色んな人達が声を上げて応援してくれる。やっぱり気恥ずかしい。隠れるように乗り込む。
馬車の中は、俺とお世話係のメイドが一人とスゥ様。名前はシーナさんでいつも率先して俺の服を脱がしにかかる少し困ったさん。でも、同性で顔馴染みだから気楽で良い。
ん?
しれっと姫様が紛れ込んでいた。
あまりに自然な同乗。一瞬、受け入れてしまった。
「い、嫌です!私はお姉様とドキドキでラブラブな小旅行を楽しむのですぅ!夕日を背景に愛を語らうのですぅ!」
旅行じゃないよ巡礼だよ。
駄々っ子のようにもがく姫様。
車内の椅子にしがみつき剥がれない。将来有望な力強さだ。
でも、俺の前では関係ない。これ以上は埒が明かないので抱きかかえ引き剥がす。
抱っこしたら急に大人しくなった。
頬を上気させてうるうると目がおかしい。
鳥肌が立つから嫌な予感。
扉を開けて呆れているスゥ様のお父さんにポーンと渡す。
こらこら、受け止めた相手にあからさまながっかりをしない。
君のお父さん泣いてるよ。
今日は散々な目に遭ってたんだから優しくしてあげな。
出だしに少々問題があったものの、やっとこさ広場から出発。
馬車を囲むようにノートン隊長率いる護衛達も並行しながら動く。ちなみに珍獣が寄越した私兵は特に隊列を決めてる様子も無く、後ろからゆったりと付いてきている。
流石あの王子の兵士なだけはある。
窓から外を覗くとまだまだ俺を一目見ようと住人達が賑わっている。
シーナさんに促されながら手を振る。たった一人の為にここまで集まってくれたんだから当然だね。
ただ馬車に並走するように見知った集団が追いかけている。
アリス教に幸あれとかアリス様万歳とか叫んでるけど気にしない。
先頭を走る女の子がミーナちゃんに限りなく似ているけど気にしない。
でも、手だけは振っておこう。
「「「我らの神が手を振って下さったぞおぅおおお!!!」」」
気にしない。
狂信者達が追走する中、馬車は教会辺りまでやって来た。
もう随分と聞き馴染んだ声が頑張って下さいと言ってくる。
お姉ちゃん達とは昨日ちゃんとお別れをしたけど、もう一度大きく手を振る。
お姉ちゃんや高圧シスターだけでなくトーラスさんや教会で働く人達総出で見届けてくれる。
最初に訪れた時とは全く変わってしまった光景。
なんだかこれから巡礼っていうひと仕事があるのに、とても幸せな気持ちでいっぱいだよ。
「行ってきまーす!」
俺は元気良く旅立ちの言葉を残し、王都を出立した。
出た後もそれでも追走しようとしていた信者の方々は皆仲良く門兵の人達に阻まれていました。
ミーナちゃんが門兵の頭を飛び越えようと跳躍してましたが、無事取り押さえられてました。
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