聖女のお披露目



舞台は王城から真っ直ぐ進んだ大広場。

多くの民衆に迎えられながら聖女としての正式なお披露目が執り行われる。

壇上に訪れてからも一向に民衆の活気は収まらない。


まずは国王陛下からの挨拶。

昨日の王城での晩御飯の時に王様が自慢していた拡声器。長々と説明されたけど難しかったので簡潔に言えば魔道具。この国随一の魔工士達の手で造られた逸品。普通の会話するくらいの声量を拾い、音を増幅させて周囲に届けるらしい。うん、とにかく凄いみたい。



国王は立ち並ぶ位置からニ歩前へと出て、口元に拡声器を当てる。


「みな、静粛に。」


威厳のある凄んだ声で右手をバッと上げ制止させる。けど、そう簡単にはこの熱気は止まらない。


「これ静粛に!聞いとるか?静かにせよ!」


予想以上の騒ぎにちょっと慌て気味の王様。

がんばれ。


なかなか静かにならない住人達にあらあらと言いながら王妃様が手助けに入る。


それは騒ぐ人々を黙らすのに十分な音が、つんざく様に鳴り響いた。


ただ両手のひらを叩いただけ。拡声器無しでこれだけの効果、実行した本人はふふふと笑うのみ。

怖いね目が笑ってないもん、みんな顔が青く大人しくなっちゃったよ。


王妃様は旦那さんに目配せで続けるよう促す。尻に敷かれる国王はこくこく頷く。拡声器が微振動を起こしてるのは気にしないでおこう。


「み、みにゃ…皆のもの、本日はこちらに居られる聖女様のお披露目である。晴れ晴れと天候に恵まれ、今日という日に相応しい日和といえよう。この国はしばらく聖女様の恩恵が無かった。他国の自慢してくる狸じじい…こほん、しかしこうして我が国に聖女様が誕生なされた。とても素晴らしきことである。聖女様の御慈悲と共に我々もよりこの国を良くして行こうではないか!」


大きな喝采が上がった。

儂頑張ったと達成感に満ちた国王。

よく頑張ったね、次は俺だ。

聖女様から挨拶とこっちに戻ってきた王様から拡声器を渡される。


俺は拡声器を片手に同じく前に出る。

そしたら、国王のとき同様色々な所から声が上がる。

さっきと同じで無駄だと思いつつ、静かにするようお願いしてみる。


「しー、挨拶しても良いですか?」


「「「はい、喜んで!!」」」


駄目元で拡声器の前で人差し指を口に当てしーっとお願いする。

綺麗に声が揃い一斉に黙ってくれる。

後ろで王妃様に慰められている落ち込む王様。

俺はなんだが申し訳ないと苦笑しつつ挨拶を続けた。


「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。このように歓迎して頂き真に嬉しく思います。私は洗礼式にて聖女の証を承りましたアリスと申します。聖女の名に恥じないよう誠心誠意努めて参ります。ですので、どうか温かく見守って下さると嬉しいです。どうぞ宜しくお願いします。」



それは神様の悪戯か。 


簡単な挨拶終了直後、勝手に額の証が光を放つ。

放たれた光は天へと舞い上がり、この場に集まった全てのものに温かな光の雨が降り注いだ。



誰もが息を呑み心を奪われ、光に触れれば癒やされる。

この時ばかりは悪意もないただ幸せなひとときに包まれた時間となった。

やがて光りは落ち着き、神話の世界は終わりを遂げる。



やらかしてしまった本人に一気に視線が戻ってくる。

とりあえず、ニコリと笑っときます。


今まで以上に大地が軽くひび割れる程の大声援が上がり、神様の余計な細工の混じった俺の挨拶は本当に終わった。

戻ってきた俺にツーンと子供っぽく拗ねる国王。

俺は無実です。



あとは、出発だけ。



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