番外編 聖女の冒険6
自分の手駒を壊滅され怒りに顔を激しく歪ませるゴブリンの王。
普通のゴブリンよりも何倍も大きく屈強な体格を持つ。おまけに武器持ちか、興奮が収まらないよ。
あの図体なら動きはそこまで速くないはず、距離を詰めて一発ぶち込んでみよう。
キングゴブリンの登場に冒険者達が騒ぐが構わない、もう目の前だ。
ちゃんと俺の動きに反応している。
迫る俺目掛けてかち割らんと二本の大斧を振り下ろす。対処はさっきのホブゴブリン達と同じく宙へ舞う。
そのまま頭を潰せれば良いけどそうはさせてくれない。
大斧では間に合わないと判断したのか、真上の俺に向けて何か口から吐き出そうとしてくる。
空中ではこれ以上の身動きは難しい。
王様が吐き飛ばしてきたのは異臭を放つ紫色のドロッとした液体。
王様ともなれば毒を出せるのか、これは驚き。
俺は軽い舌打ちと共に顔を守るように両腕で覆う。ジュウと焼き爛れるような音と匂いが激痛となって俺に襲いかかる。
毒液を受けた衝撃で少し退がってしまった。せめて蹴りを入れたかったな。
あーあ、腕は動かないし口からどんどん血が溢れてくるよ。
ったく王様め、愉快そうに笑いやがって俺じゃなきゃ死んでるぞ。
馬鹿にするキングゴブリンにぶぅーと頬を膨らませ聖女の力を解放する。
俺の身体を眩い光が全身鎧のように包まれていく。はい、復活。
立場逆転。
にんまりと笑う俺とあんぐりと口を開ける王様。
残念、聖女でした。
さて、そろそろ余興はおしまいにしましょうね。
これ以上後ろで涙を溜めて心配そうにしているロコルお姉ちゃんを待たす訳にいかない。
何故か化物を見るような目をする王様に不敵に歩み寄る。
恐怖を打ち消す為か叫びに近い咆哮をあげ、もう一度斧を振り回してきた。
ごめんね、もう見飽きちゃった。
スッと横に避けて躱し力任せに足を払う。
仰向けに倒れ、鍛えられた筋肉をぎっしり詰めたお腹がそこにあった。
ですので、容赦無く踵を下ろさせて頂きます。
にっこりと強者に敬意を示して、はい一発目。ん、なかなか硬い‥次行きまーす。
数発終えたら、青空に向けてくの字に体を折り曲げた王様の出来上がり。
いい汗かいたと額を拭う俺の背中に柔らかな感触が。心配が頂点まで達したお姉ちゃんに抱きつかれたみたい。
そこからは、泣きじゃくるお姉ちゃんからの説教のお時間。
次に無茶をしたらもう冒険者は駄目と言われたので誠心誠意謝らせて頂きました。ごめんなさい。
そして、ポカンとそれらの光景を見ていた冒険者達が近づいてきた。
代表するように先程の年長っぽい人が声をかけてくる。でも何故か全員片膝をつき俺を敬うような姿勢になる。
「聖女様、この度は私達をお救い下さり誠にありがとうございます。」
「え、どうして私が聖女だと‥。」
名乗っていないはず。
「どうしてもなにもあれ程の傷をいとも容易く癒し治すことが可能な御方など聖女様以外におられませんでしょう。」
「あ、う‥」
そりゃそうだ。
髪や服装を変えても聖女の力は丸分かりだもん。治した事に後悔は無いけど騒ぎになるのは困る。
「しかし、どうして聖女様がその様な格好でこんな場所に?」
当然の疑問を投げかけられた。‥‥うん、嘘つくの苦手だしここは正直に話して黙っててもらおう。
「えー実は私、聖女活動の合間にこっそりと冒険者をやろうと思いまして。王都周辺には、魔物も多くいますので息ぬ‥。」
「なるほどそういう事ですか。」
俺が息抜きがてらと告げる前に納得しちゃった。
どうして?
「え?」
「民を癒すだけでなく守ろうとは素晴らしい。」
「え?」
どうした?
「分かりました、我々は黙っておきます。陰ながらご協力させて頂きます!な、お前ら?」
「え?」
「「「おう、聖女様のために!!」」」
「あ、ありがとうございます?」
どうしてこうなった?
いつの間にか皆理解しましたという表情できらきらと見つめてくる。
お姉ちゃんも何かうんうんと頷いてるし大丈夫かな。大丈夫だよね?
最終的にこのゴブリンの件はこの冒険者達が報告してくれることになった。
後日、再会出来たら必ず王様達討伐の報酬を渡してくれるらしい。別にいいと遠慮したけどどうしてもと断り切れなかったよ。
姿が見えなくなるまで感謝の言葉を投げかけられこの場を去る。
薬草は帰り道でちょこちょこ拾えて無事帰還。
未だにギルド内での出来事が尾を引いてるのか視線が痛かったけど依頼は完了出来ました。
こうして、冒険者アリスの長い一日が終わった。
ただ次にギルドへ訪れた際に、職員や冒険者達に尊敬の眼差しで祈りを捧げられていたのはまた別のお話。
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