番外編 聖女の冒険5


冒険者らしき6人組は負傷を負いながらも、必死にゴブリン達と戦闘を繰り広げている。

しかし圧倒的に数で負けている。例えこの数を耐えれても後に控える上位種達に完全に仕留められるだろう。

俺はより加速する。ロコルお姉ちゃんも懸命に食らいついてくれる。

目の前まで来ても反応出来ていないゴブリンを踏み台に跳躍する。くるくると何回転もしながら、冒険者とゴブリンの間を割って入るように着地する。


突然の乱入者にどちらとも時間が止まったようにギョッと静止する。

追尾していたお姉ちゃんも俺の隣に無事到着。


ひと時の静けさの中、俺はすぐに指示を出す。

剣や槍で防いでいた三人の中の年長者っぽいおじさんが目を見開いて俺を見る。


「あ、あなた様は‥」


「お姉ちゃんは後ろの人達と一緒にここを維持して!俺は先に治療をする!」


「はい、お任せください!」


いつもの口調を気にしている場合ではない。お姉ちゃんの頼りになる返事を聞いてすぐさま怪我人のところへ。

倒れて動かない2人を庇うように短剣を構える女性。肩から血を流し呼吸も荒いのに突如現れた俺にしっかりと警戒している。

そんな女性に俺は敵意のないよう大丈夫だよと一言微笑んで額から光が放たれた。

身体が包まれ傷が癒されていく自分の姿に驚いている。

呆然と状況に追いついていない彼女の横をすり抜けて、倒れる2人にも眩い光を浴びせていく。

幸いゴブリン達も眩しいのか動きが鈍く、お姉ちゃんが上手く退けてくれる。


次第に光は収まり、倒れた2人もさっきまでの苦悶の表情は無くなった。今は落ち着いた呼吸で眠っている。

俺は2人の頭をそっと撫でる。


「よく頑張ったね、ありがとう。」


この2人はまだ困惑気味で何か言いたげな女性に任せよう。一応、頷いてるし大丈夫でしょう。


それでは待ちに待った時間の始まり。

混乱から復活したゴブリン共がぎゃあぎゃあ喚いている。

ロコルお姉ちゃんのお陰で数に押し潰されることはない。

俺はニヤリと笑い、お姉ちゃんと冒険者達の前に躍り出る。そして、力拳を強く握りしめ正面へただ振り抜く。



俺の拳に一番乗りしたゴブリンは運が悪い。拳が顔面に埋没していき、ボキボキと不思議音が立て続けに鳴る。

その衝撃は周りのゴブリン達も巻き込むように伝染し、俺の目の前には大きな道が出来ていた。わざわざ上位種であるホブゴブリン達までの道のりを作ってくれるなんて良いゴブリン達だね。


俺の獰猛な微笑みは次の標的へと向いていた。

出来た俺の道を邪魔する奴は、お姉ちゃんがきちんと処理してくれる。頼もしくて助かります。ほとんどの敵の注意を引いているからあの冒険者達は何とかなるだろう。

それにご丁寧にホブゴブリン達は前衛と後衛に分かれて上手く連携を組んでお相手してくれるようだ。面白い、やはりまだ奥に知のある王様がいるのかもしれない。



止まらない欲望が爆発する。

地面を割るほど蹴り込み距離を縮める。接近する俺に炎や水の塊が飛んで来るが甘い。そんな魔法俺に当てるには遅すぎる。もうそこにはいませんよっと。


迫る俺に前衛のホブゴブリン達は錆び付いた剣や棍棒で立ち向かう。

そんな可愛らしい玩具なんて何の意味もない。いくつもの刃が地面に届く頃には空へと舞うように躱している。

そしてそのまま敵の脳天へ次々と蹴りを打ち込んでいく。

空中でも十分に威力は出せる。前衛の頭を歩く度に足場は崩れていく。


俺が空中散歩を楽しむ間にお姉ちゃんが後衛のメイジ達を始末してくれた。俺に注目し過ぎて背後が疎かだぞ。



ようやく上位種達を殲滅した頃には、目に見えてゴブリンの数も減っていた。

俺とロコルお姉ちゃん以外の冒険者達はみんな安堵の表情を浮かべている。


「まだ安心するには早いよ。」


怒りの込められた咆哮が大地を小刻みに揺らす。



そして、やっぱり現れた。

馬鹿みたいに大きい大斧を両肩に担いだ王様のお出ましだ。



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