巡礼と唸る拳

巡礼会議



今日は王城からいつもの使者がやって来た。

久しぶりの呼び出し。

2週間ぶりくらいとあって懐かしい感覚。

ここ最近は外での初冒険やその後の強制反省で教会に自粛してたし。でも、もちろん治療は怠ってないよ。


お呼びの内容は、前々から話のあった巡礼について。いよいよか、聖女として堂々と外で魔物達と語り合える催し。いえいえ、ちゃんと治療が優先です。無茶はしないよ本当だよ。



一緒に聞いていたトーラスさんと使者さんで相談し合った結果、王城での会談は明後日となった。相変わらず融通がきく。それだけ期待されているのかもしれない。患者は至る所にいるから頑張って応えてみせよう。


それでは明後日お迎えに参りますと使者さんが帰っていた。いつもありがとう。


さてと明後日まで何しよう。

ふとここで疑念がよぎる。

そういえば、巡礼は長いからその間に冒険者資格が失効されるのでは?

どうしよう今のうちに7等級以上まで行けるだろうか、無理だよね。

折角、冒険者になったのになぁ。ちゃんと先を見通せてなかった。


明らかに落ち込む俺に、聖堂を掃除していたロコルお姉ちゃんが心配そうに声をかけてきた。

俺は素直に愚痴るように説明した。

お姉ちゃんはなるほどと呟くと顎に手を当て思考に入る。

どうしたの?と覗く俺をぱっと見て一言。


「大丈夫です、私にお任せください。何とかなります。いえ何とかしてみせます。」


とても満面な笑みで自信満々に言う。お姉ちゃんなら本当に何とかしてくれそう。

でも、無理や無茶は駄目だよ。ちゃんと道徳を守って、ね?


お姉ちゃんはただ笑う。

聞いてる?



と、とりあえず冒険者に関してはロコルお姉ちゃんに任せます。最悪、失効しても気にしない。

再取得には時間かかるけどそれでもいい。



それからの二日間はひたすら治療に時間を割いた。話し合いからすぐに出発ってことは無いだろうけど、出来る限りギリギリまで沢山の人を治しておきたい。

ついでに巡礼が近いことも伝えとこう。

俺が居ない間は治療の術は薬草を使った薬ぐらいしかない。効果は聖女の力と比べるまでもない。軽傷専用だね。


幸い治療に訪れた非公認なアリス教の人達が王都内に広めておいてくれらしい。有難いけどついでに素晴らしさは伝えなくて良いからね。

聞いてる?


アリス教の面々は新たな信者を引き連れ教会の外へと放たれていった。

全く聞いてないのね。




そして、会談日。

毎度お馴染みの使者と共にいざ王城。

ちなみに今日はお仕事関連だからローブ姿だよ。

ドレスを持って迫る高圧シスターとお姉ちゃんはしっかり回避しました。お、お仕事だからね。


馬車はいつもの場所に。

それに窓から見えたけどいつものメイドと執事の道。

そして馬車のドアを開けて手を差し出すのはいつものアルフ。……を押し退けてスゥ様。お兄さんが吹っ飛んたけどいいの?


姫様は全く気にせず俺を迎え入れ、息の合ったメイドと執事達は見事に同じ明後日の方向に顔だけ逸していた。首を痛めたら言ってください。


オロオロする使者の肩を借りたアルフと俺に抱きつくスゥ様を連れてお話の場へと向かう。

以前、初めて王族の人達と挨拶をした場所。



扉を開けてもらい中に入ると、ソファに座る国王とその後ろに熊っぽい騎士団長のガルムさんが控えていた。ついでに扉近くに巡礼同行が決定しているノートンもいたよ。


アルフは右の席に座り、俺は国王と対面する形で座る。姫様は俺の腕にしがみついたまま。



一人を除く全員が苦笑いを浮かべつつ、巡礼についての話し合いが始まる。



まだドタドタと近づいてくる珍獣には誰も気付かない。



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