初めてのお泊まり会 後編
折角の豪勢そうな晩御飯。
分厚く切られたお肉、赤身を少し残すという意地らしい焼き方で無造作に肉汁が垂れている。
屋台で齧り付いている肉とは何段階上を行っているのか見当もつかない。
塩胡椒と簡単な味付けのはずなのに俺の鼻へ暴力的なまでの食欲をそそる匂いが流れ込んでくる。
でも、全然食が進まない。
王族達が初手の褒め責めからずっと事あるごとに、容姿や前回の騎士団長戦と色々と褒めてくる。
生を受けてから12年。こんなに褒められたことはかつてない。自分の顔がどんどん紅潮していく。
ほら、恥ずかしがる姿も可愛いとか言ってきたよ。もうやめてご飯に集中しよ?
ニコニコと笑ってばかり。もういい俺はこのお肉を絶対食べたい。みんなと視線を合わせるのは今無理だから、もそもそっとでも食べてやる。
いつもならもっと食べられるのに、何故かもうお腹がいっぱいになってきている。
結局、絶好調の半分、たったの二人前分しか喉を通ってくれなかった。
視線の定まらない気まずいお食事がようやく終わった。
なんか疲れちゃった。
食事の場を後にする。もちろん退出前に王妃様にぎゅーっと抱きしめられました。
ほのかに香る何かの花の安らぐ匂い。
俺の顔を埋めんとばかりの幸せと未来を絶望させる塊。凄かった。
もうお外は真っ暗。昼間の騒がしい喧騒も落ち着き、何処からか聴こえる魔物の遠吠えのみ。
王都の夜は昼とはまた違う顔を見せてくれる。
もうお休みするだけ。
寝室は王城にあると思う客人用の部屋かな?
なんて思ったら着いたのは姫様の寝室。
くるりとこっちを向いたスゥ様は両手を握ってお願いしてくる。
小動物のように上目遣いで見つめて可愛い。
「せっかくですから今晩はご一緒に寝ませんか?」
「え‥でも一国のお姫様と添い寝って問題になるのでは‥。」
「大丈夫です。周りは見てませんし聞いてません。」
周囲に控えるメイドと執事達は両耳を手で塞ぎ、窓から見える外の景色を傍観している。とても息が合っておりますな。というか、聞こえているでしょ?
「駄目‥ですか?」
大きな瞳にうるうるが追加された。ずずいと近づいてくる。何故姫様だけでなくメイド達も潤ませて懇願してくるのか。
俺はまた小さく溜息を一つ。
あざと可愛いお姫様の頭をそっと撫でる。
「分かりました。スゥ様と初めてのお泊まり会です。今晩はご一緒してもよろしいですか?」
「っ!はい、よろしくお願いします!」
姫様との添い寝が決定と同時にメイド達による寝間着への強制脱衣からの強引着用。これまた王妃様のお古で哀愁が発生する。
寝巻きに着替え終え、寝室は姫様と2人っきり。
扉の外に従者が数人待機しているのみ。
しばらくはお茶会の続きがてら天幕に囲まれた大きなベッドで座りながらお話。
姫様のもっと幼少期の頃の話や俺が色んな魔物達と戦った話で大いに盛り上がった。
でも、2人同時に飛び出た欠伸をもって終了。
そろそろ寝ましょう。
この大きさなら2人並んでゆっくり足を伸ばして寝られる。
灯りを消してスゥ様と向かい合うように横になって眠りにつく。
今日は色々と疲れたからぐっすり眠れそう。
正面にはお姉様の無防備な寝顔。
はぁ、はぁ堪らない堪らねぇです。
こんな天使の姿を目の前にして眠りにつける訳がない。もう私の目はギンギンです。
触っても‥触ってもよろしいでしょうか。
返事がない。良いのですね。
その無防備で無抵抗なお姉様に両手を忍び寄せる。
触っちゃった‥寝ているお姉様の手を触っちゃいました。警戒していないのは信頼の表れか何はともあれ嬉しい。
こんなあったかい手で多くの人々を救っているのですね。
はぁ、素敵です。
こ、このまま手を握って寝てしまいましょう。何か言われても寝相の悪さと言い逃れ出来るはず。
へっへっへとほくそ笑む私に幸せな偶発事故が。
うぅんと唸りながらお姉様が空いたもう一つの手を私の腰へ抱くように被せてきました。
くふっ‥耐えて、耐えるのよ私。お姉様を起こしては駄目。
込み上げてくる何かを懸命に押し戻す。
そして、朝を迎えた。
目はギンギンと血走るも幸せなひと時でした。
一片の悔いもございません。
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