お茶会終了のお知らせ



死を司る狂戦士と化した姫様。

その効果は絶大で、お茶会の雰囲気はもう恐怖と絶望に染まりきっている。

ゆっくり紅茶を飲む暇もない。


周りに控える従者達でさえスゥ様の殺気に当てられて膠着状態。

正確には誰が姫様を止めるか目線だけで譲り合っているようだ。

それを担当するのは可哀想。


結局は俺が原因みたいなものだし、仕方がない止めましょう。



ずっと加工令嬢達に王族特有かそれとも本人の資質か分からぬ威圧を振り撒くスゥ様の肩をポンと叩く。

俺はまだこの程度の威圧なら全然平気。


平然と近づいて行った俺に驚きの表情でみんなが見ていた。


「スゥ様、私の為に怒って頂きありがとうございます。ですが、もう怒りをお納め下さい。私は全く気にしていませんので‥。」


「ですが、この者達は聖女様に大変無礼な振る舞いをしていたのです。決して許して良い行ないではございません。」


振り向く顔は狂気を潜めて泣きそうな顔になっている。

俺の為に怒ってくれている、ありがとう。

でも、もう十分。


「確かに初対面の人に対しての対応としては良いとは言えません。ですが、彼女達は彼女達なりに姫様のことを想い忠言をいたしたのでしょう。私が聖女であっても平民だったことも事実です。心配をされていたのだと思います。ですよね?」


俺は加工令嬢と取り巻き達に視線を送る。

彼女達は必死でこくこくと頷く。

実際はどういう気持ちだったかは知らないけど、防衛本能は高いようだね。


「ですから、スゥ様今回はもうこれぐらいで許してあげて下さいな。彼女達もこの件でしっかりと反省するでしょうから。」



ニコニコ笑う俺、じっと見つめる姫様。

流れている時間も今だけは止まる。




呆れるように小さなため息が吐かれる。


「はぁ、分かりました、おねえ‥聖女様がそこまで仰るなら本日はこれでお咎め無しと致します。」


「ふふ、ありがとうございます。」


「もう聖女様が感謝する事では無いでしょう。こほん、お前達、聖女様の御寛大なお心に感謝致しなさい。今後もし同様に不敬な態度で接するようであれば、その顔と胴体が離れると思いなさい。」


ずっとガチガチと震わし、それでも懸命に頭を縦に振り同意を示す。

この子達も多少の偏見はあれどもある意味被害者だよ。

大方あの珍獣に上手く唆されて来たんだろうから。


だから、これは俺からの慈悲。



額の証を一気に輝かせて、お茶会の会場全体に届くように光の粒が振り撒かれていく。


最近、治療中に患者さん達から聞いた新事実。

この温かい光の粒子は、怪我や病気を治すだけでなく心に安らぎや癒しを与えてくれているらしい。

本当かどうかは定かでは無いけど、もう精神ボロボロのこの子達と従者達を少しでも癒せればいいな。

あと、姫様の切れた血管の治療も込みで。


突如として顕現した光の流星群、美しい幻想的な光景にみんな心を奪われて目が離せない様子。


「‥‥‥‥もうお姉様ったらお優し過ぎです。」



ボソッと何か呟くスゥ様。

きょとんとした顔で見るもふいっと逸らされてしまった。

あれ、俺なんか嫌われることした?



と、とりあえずいつまでもぐるぐる巻き娘をテーブルに固定させたままは不憫。

フォークを外そうと近づく俺に少しビクッと震えられる。それは傷つくよ。



見事に絡みついた髪を引っ張らないよう慎重に解いていく。

よし、解けた。このまま抜いてしまおう。


結構深々とテーブルに刺さったフォークをスポッと抜き取り、まだ寄れかかっている加工令嬢の手を取る。


立ち起こした拍子にばっちりと目が合ってしまった。

一応、安心させようと笑ったのに俯かれってしまった。

あれ全体的に嫌われてる?



聖女様は彼女の真っ赤になった耳たぶまでは気付かない。




こうして、騒動だらけのお茶会は終演を迎えた。

テーブルは叩きつけた所為で壊れているし、多少怯えの無くなった彼女達も暗い表情のまま。

こんな状況で続けられる訳がない。


他の人達も同意するようで姫様に手を引かれて退出する俺達を黙って見届けていく。





疲れた。

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