微笑むあの子は狂戦士



現在の状況。

姫様を一応心配するように髪ぐるぐるで頭くるくるな令嬢達が言葉と紅茶で俺に忠告。


そして、スゥ様はこそっと手にしたフォークをいつでも突き刺せる準備をして笑っている。

目は殺意、手はフォーク、口は微笑。


どうだ、これがこの国のお姫様だ。



しかし、そんな事はつゆ知らずどんどん刺激していく。



「全くここまで忠告して差し上げても察せられないのかしら?これだから平民は愚かしいですわ。ここは貴方の居ていい場所で無くってよ、身の程を弁えなさいませ。早く教会にお帰りなさいな。」



ブチっ



何かが切れる音がした。

音の発生場所は横の姫様だと思う。

ゆっくりと目線を向けると、後頭部から首にかけてツゥーと赤い線が。


もしかしなくても、あれは血。


ギギギと俺と目が合うスゥ様。

ニコリと笑い、口だけが動く。



もういいですよね?



駄目って言いたいけど、その血走った目が言わせてくれない。

結局、返事を返せないまま、姫様はぐるぐる加工令嬢と取り巻き達に向き直る。


そこからはまるで舞踊のよう。


未だに微笑みを絶やさないスゥ様は、おもむろに緩りと加工令嬢に近づく。

加工令嬢は自分達の忠告を分かってくれたとでも思ったのか、俺を自慢げに見やり姫様を歓迎する。


そんな訳がない。あれは狩をする肉食の獣と同じ目を纏っている。



はい、始まった。

自分より幾分か背の高い加工令嬢を風が吹き込むように足払いする。あまりにも自然な動きに状況について来れていない令嬢は目もぐるぐるとさせている。


だが、まだよろけるだけで完全には倒れきれない。

でも大丈夫。姫様は加工令嬢のぐるぐる髪を鷲掴み、テーブルへと叩きつける。

綺麗な流れで周りは俺以外訳も分からず茫然としている。

叩きつけられた本人ですら困惑とした様子。


そこで止まらないのがスゥ様。


隠し持っていたフォークを突き刺す。

もちろん加工令嬢の横顔を擦り抜けてテーブルに。

顔に刺さないと思っててもつい構えちゃったよ。それぐらい今の姫様は鬼気迫るほどの迫力がある。


そして、フォークにぐるぐる髪が絡んでしまい固定され動けない様子。



まだ戸惑いから復活出来ない令嬢も顔だけしっかりと青くなる。

うん、あれで青ざめないのは爺ちゃんくらいだよ。


スゥ様はゆっくりと怯える加工令嬢に顔を近づけ、ずっと笑っていた口を解放する。


「貴方達は随分と失礼な事をおっしゃられておりましたね。身の程を弁えろですって?ふふ‥それはお前達でしょう。」


「え、え‥」


もう姫様は笑っていない。

どこまでも冷たく、心の底から冷え切ってしまいそう。


「聖女様は私達王族と同格。いえ下手したらそれ以上でしょう。元平民?笑わせないで下さい。この御方がこの国にとってどれ程必要で大切な人かご存知ですか、あぁん?」


「あ、え、あの‥」


「私はこれでも我慢してましたの。お前達が本来崇拝するべき聖女様に沢山不敬を働いているのを黙って見てました。この御方が慈悲深く大海原より広い寛大なお心でお前達の愚行を許して頂いておりましたからね。でも、最早限界。目に余ります。」


黙って見てたって殴り掛かろうとしてたと思うけど‥。

もうテーブルに拘束されている加工令嬢だけでなく、周りで狼狽していた取り巻き達もすでに顔色は恐怖一色に染まっている。


「お前達の悪意ある行ないは、本来なら厳罰対象です。ふふ、どういたしましょうかね?」


「あの、お許‥お許しください‥どうか‥」


死神のように笑いまだ備えていたフォークで頬を軽く彼女の頬に当てている姫様へ必死に許しを乞う。

先程までの偉そうだった面影は無い。

化粧で美しく整えられていた顔も涙でボロボロ。

周囲では恐れから来る震えか歯がカチカチと噛み合わず、姫様を囲うように歯音が鳴り響く。


お茶会という名の断罪場みたい。



うーん、いい加減止めた方が良いよね。

俺の被害って態とかどうか不明な紅茶が掛かっただけ。

この光景を見ていると、やり過ぎ感が否めない。



こんだけしっかりと怖い思いをしたんだから、反省もするでしょ。



俺は狂化している姫様を止めに入る。


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