お茶のお供にトラブルを
ようやく心を平常に戻すことが出来た。
ずっと真剣に俺の姿を褒めてくれたアルフには、御礼がわりとお腹に軽い拳をプレゼントとしてあげた。
もちろん従者の方々は他所を向いてくれている。
嬉しそうにお腹を押さえて喜んでもらえたなら良かった。
俺の顔を真っ赤っかにさせたんだ、それぐらい受け取ってよね。
抱きついてたスゥ様はもう剥がしました。
これからお茶会なのに姫様じゃない状態は不味いもん。
このままスゥ様と一緒にお茶会の場に向かう。アルフはお出迎えだけのようで、お腹を押さえたまま何処かに行ってしまった。
急がしいなら出迎えなんて要らないのに、余計な恥を晒してしまったじゃん。
頭の中でぶつぶつと文句を流す俺に、スゥ様が話しかけてくる。
「お姉様に謝らなければいけない事がございます。」
「謝らないといけないこと?」
「はい。」
会場までの廊下で不意に立ち止まり、申し訳なさ全開を漂わすスゥ様。
先ほどの変態ぶりとは一転した様子。
その可愛らしい小さなお口から重苦しく語られる。
「実は本日のお茶会ですが、本当は私と2人っきりでゆっくりとお話をと思っておりました。ですが、糞下衆畜生お兄様が何処からか嗅ぎつけたようで、何人か令嬢を勝手に招待しやがりましたの。」
「そ、そう。」
「あの糞下衆畜生お豚様が寄越した人達です。恐らくお姉様にご不快な思いをさせるかもしれません。本当に申し訳ございません。」
姫様っていう身分関係なく真摯に謝ってくれる。
自分は全く悪くないのに、この子は良い子だな。
たまらず頭を撫でる。君は悪くないよと教えてあげるように。
「スゥ様、私は大丈夫ですよ。何を言われたとしても気にしません。それにもしかしたら何も言ってこないかもしれないですしね。」
「お姉様ぁ‥」
「せっかくのお茶会です。楽しみましょう、ね?」
「はい、ありがとうございます。私が必ずお姉様をお守りいたします。」
「ふふ、それはとても心強いですね。」
フンっと小さな力こぶを作るスゥ様。
可愛らしい騎士様の誕生だ。
ただぶつぶつと『あの糞下衆野郎が‥いっそ‥』とぼやくのは止そうね。
目が据わってて怖いから。
お茶会の場が近いようで女の子達が楽しそうに談笑する声が聴こえてきた。
スゥ様ももうすぐ到着ですって言ってる。
外庭で行なうらしく、辿り着いた扉の先は外へと繋がっているようだ。
メイドがゆっくりと扉を開く。
そこには、色々な柄をあしらったドレスを着込み、頭や首、指などに装飾品を武装した豪華絢爛な女の子達が待ち受けている。
中にはどういう加工を施したか分からないぐるぐる巻きの髪をした女の子もいる。
これが貴族って奴か。
色んな意味で驚きだ。
俺とスゥ様の存在に気づいたのか次々と視線が突き刺さってくる。
長年の戦闘経験から分かる友好的ではない視線達。
それにさっきまでの賑やかさは鳴りを潜め、一斉にシーンと静まり返る。
これが姫様のお出迎えで静かにしたのか、敵を捕捉して静まったのかは不明。
一つわかることは、絶対碌なお茶会にならない事。
そんな中、よく目立つぐるぐる加工令嬢が取り巻きみたいな女の子達を引き連れてほほほと笑いながら優雅にやってくる。
俺を見る目はどう見ても馬鹿にした様子。
面倒くさい存在は来るなという願いも虚しく、ぐるぐる巻きの髪を揺らしながら確実に訪れる。
ただその髪が揺れるたびに後ろの取り巻きの女の子にペチンペチンと当たっていたよ。
そして、お茶会が幕をひらく。
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