聖女の乙女力が上がった
馬車は通りを抜けて王城へ。
道中、合間合間で使者の方が俺をちらっと見ていた。
言いたい事があるなら言って欲しい。
でも、俺だって何となく察している。
どうせこの服装でしょう?
似合って無いのは自分が一番理解しているよ。
アルフ辺りが絶対鼻で笑うよ。頭に浮かぶもん。
先行き不安な俺を無視して到着。
本日も変わらずメイドと執事がお出迎え。
そしてこれも変わらない。
アルフとスゥ様の王族組も待ち構えている。
王子とか王女って色々やる事あると思うけど、案外暇なのかな。
これは早速笑われるなぁ。
ドレスをちょこんと摘み、自分の姿にため息を一つ。
意を決して馬車を降りる。
メイドと執事は表情筋をしっかりと鍛えているのか俺の姿に反応を示さない。
さて、王族達は。
アルフもスゥ様も大きく目を見開き、小さく息を漏らす。
俺の似合わない変な格好に驚きを隠せないってか。
スゥ様がわなわなと震えながら近づいてくる。
そして、ガバリと抱き着いてくる。
おおぅ、どうした?
「アリスお姉様美しいです。綺麗です可愛いです堪らないです。すぐに画家をお呼びします。この姿、未来永劫残し続けなければなりません。スーハスーハー」
「スゥ様落ち着いて‥ちょっと本当に落ち着いて!お腹に顔を埋めて嗅がないで!」
強引に引き剥がす。
謎の禁断症状に陥り、悦に入るスゥ様の肩を揺らして正気に戻す。
お姫様がよだれを垂らしてご満悦な表情を浮かべたら駄目でしょう。
「す、すみませんお姉様。つい心を乱してしまいました。」
「う、うん。落ち着いたなら良いですよ。あと、画家は呼ばないでくださいね。」
「ふふふ。」
否定しろ。
つい否定しないスゥ様の柔らかそうな頬っぺたをうりうりしてしまった。やばい、これ王族に手を出したことになるかな?
周りの人達の顔を確認する。
みんな何も見てませんよとでも表すようにメイドも執事も使者も明後日の方向を向いてくれている。
ありがとうございます。でも、仕える人がそれで良いのかい?
とりあえず、画家は呼びませんと言質が取れたので許します。
スゥ様は姫様に戻ってくれた、アルフの方はどうだろう。
未だに俺の姿をまじまじと見ている。
な、なんだよ、似合わないならはっきり言えばいいでしょう。
「アルフ様、どうかされましたか?」
「いや、おま‥聖女様の姿に見惚れてしまってな。その真っ白なドレスが貴方の綺麗な黄金色の髪と赤い瞳をより引き立たせている。美しいよ。」
「な、な、にゃ‥」
何をいきなり言ってるんだ、こいつ。
冗談なら冗談でそんな真顔でさらりと言わないでくれ。
お前はそんな事を言う人間じゃないでしょ。
ぷふと笑いながら小馬鹿にしてくる人だろう。
「ま、まあお上手ですね。御冗談でも嬉しいですわ。」
「冗談なんかじゃない。私は美しいと思ったらはっきり言う。素直に受け取ってくれ。」
キリッと真剣な眼差しで何を言ってるんだよ。
慣れない言葉責めで自分の顔がどんどん紅潮しているのが分かる。
からかってくれた方がどれだけ楽か。
「あ、ありがとうございます‥」
「お姉様の照れ顔もまたけしからんですわ!」
ボソッと御礼を告げる俺に、またスゥ様が絡み付いてくる。
今はもうされるがままにしとこう。
少なくともバクバクと煩く振動し続ける心が治るまでは。
アルフの馬鹿が‥。
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