司教の一日2



私の朝は三杯の葡萄酒から始まる。

げっぷ、うむ美味しい。


最近は忌まわしい事だらけで、胃がムカムカしてかなわんわい。


あの生意気な第二王子め、何故毒で死ななかった。

毒を仕込ませに行かせた男は、紅茶に仕込んだと必死に訴えておった。しかし、王城で彼奴は変わらずの目つきで儂を睨んでおったではないか。



くそ、しかも王都内で女神が現れたなどと変な噂も流れておる。

怪我や病気を患う平民をどんどん治しているという。

愚かで汚らわしい平民風情に女神が目を向けるなどありえぬわ。

じゃが、この噂の真偽は確かめておかねばならないのう。


指を鳴らせば、どこからともなく現る影達。黒装束を着込み不気味ではあるが良い駒達だ。


「よいか、近頃王都内に妙な噂が流れておる。真偽を確かめて報告せよ。」


影達は静かに頷くとまた霧のように消えていく。

さて、どんな報告が待っているかのう。



数日後、新しく手に入れた葡萄酒を嗜んでいると報告が届いた。

女神の正体が判明したらしい。

なかなかの早さだ、褒めてつかわす。


なんとあの聖女に選ばれた平民の小娘だった。

最早忘れかけていた存在であるが、全く余計なことを‥。大人しく教会に篭っておれば良いものを。

もしや、あの生意気小僧の毒も小娘が治療したのか?

よく小僧は王城をこっそりと抜け出すと聞いたことがある。

たまたま出くわした可能性が高い。

なるほど‥全く出しゃばりおってからに。


儂の計画を無にした代償はその下賤な命で支払ってもらおう。


ぶひひひ、あの世で後悔するがいい。



「おい、小娘と一番親しい者は誰だ?」


「ロコルという孤児院育ちの平民でございます。教会では助祭とあの聖女の治療のお供を務めています。聖女はかなり心を許している様子です。」


「あの小娘を聖女様と呼ぶでない。聖女の名が汚れる。ぶひひ、なら近いうちにその平民の女に毒を渡せ。そして、小娘に飲ませろ。なーに、儂の名を出せば従うだろう。従わなければ教会に居場所が無くなると思えとでも伝えてな。ぶひ、貴族に従わぬ平民などいまい。」


「はっ!かしこまりました。」


これであの小娘は死ぬ。

聖女の力がどれほどのものかは知らぬが、今度の毒は即効性の強力なものだ。

流石にくたばるだろう。

国王には、顔の傷で醜くなった自分を嫌になり精神が病んでしまい自殺したとでも言えば良かろう。



今回の聖女が死んでもまた新たに誕生するだろう。次は必ず貴族から生まれる。

あの小娘は間違いであったのだよ。



さて信頼するお供に毒を飲まされる時、小娘にどれほどの絶望が待ち受けているか。



ぶひひ、あぁ実に愉快。

不思議と胃のムカムカも治まってきたか。

さて、今日は第一王子との親睦を深めに行っておこう。小娘がいなくなれば、またすぐに第二王子には死んでもらおう。今のうちに第一王子を傀儡として操りやすくしておかねばな。



おっと、このお酒を飲んでからでな、ぶっひひひげっふ。



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