裏社会の首領
裏社会を仕切っているブラッドって人の治療のため、男達に案内をしてもらっている。
さっき少し強めに言ったせいか金髪ことアルフが大人しい。そのまま帰ってくれても良かったんだけどなぁ。
よほど彼には俺が庇護欲を掻き立てられる存在なんだろうね。
中身は全く正反対なのに。
「着きました、こちらです。」
男達の案内した場所は、王都の大通りから少し離れたところにある5階建の建物。
一階は商店になっている。
裏社会がどうのこうの言ってたから、もっと危険な場所かと思ったよ。
普通の商売もしているんだね。
感心感心‥じゃなくて治療に行かなきゃ。
そのまま男達について行き、奥にある階段を上って最上階の部屋に到着。
目の前に扉が一つだけある。話によるとこの階はブラッドって人の生活空間らしい。
男の一人が扉をコンコンと叩く。
すると、扉越しに吃った声で入室許可が出た。
入ろ入ろ。
部屋を進み、寝室かな?到着。
そこには、人が3人寝れそうな大きさのベッドで汗と体調が酷い男性がこちらを見つめている。目つき的に睨んでるように見えるよ。彼の周りにはあらゆる書類が乱雑に置かれていた。
病人なのに仕事してたな。
「おい、そいつらは何だ?ここは子守する場所じゃねぇぞ。」
あの赤毛絶対俺を見て言いやがったな。
「私は子守されに来たわけではありませんよ。貴方の病気を治しに来ました。」
「お前が俺の病気を治すだって?色んな伝手を頼って集めた薬でも治らない病気を?冗談ならもう少し笑えるのを頼むぜ、嬢ちゃん。」
信じられないのは分かるけどさぁ。
まだ皮肉が言える元気があるから良かったけど。
「ブラッドさん、この方は本物ですぜ。最近、噂になっている例の女性本人ですぜ。」
「お前達‥あんな噂を本当に信じていたのか?おい、嬢ちゃん。これ以上構ってやれない、とっとと帰んな。」
とか言いつつ、書類に手を伸ばすなよ。
こういうのは口で説明するより行動に移す方が早い。
俺達への関心を失い書類に目を通し始めたブラッドさんにずかずかと近づく。
「おい、帰りなって言っただ‥」
「いいから、黙って病人は大人しくしてなさい!」
これ以上あんたの部下達を心配させんなっての。
彼の手元にある書類をサッと抜き取る。
急に消えて驚いてる驚いてる。
「なっ!?」
「はいはい、治療しますからねー。」
驚いている隙に、手をかざす。
俺の額が光り出し、さらにはその光が自分にも移ってきて更に驚いている。
目を見開いてるから、目つきの悪さが緩和されたね。
次第に輝きが収まっていき、治療完了。
「治ったよ。よく頑張ったね。」
血の気も戻って顔色が良くなっている。
でも、かなり汗かいてたみたい。
これで風邪でも引かれたら二度手間だ。
携帯してる布で拭こうかね。
ちょっと顔を逸らそうとするなって。
「いい、自分で拭ける。」
「いいから黙って拭かれてなさい。だいたい仕事のし過ぎだよ。病気を患ってても仕事って。治ったけど今日はこのまま安静で。分かりましたか?」
軽い説教にちょっとたじろいでる。
「これでも俺は泣く子も黙る怖い人間って恐れられているんだけどな‥」
「だからなに?私にはただの同じ人間だよ。とにかく安静に。分かりましたか?」
「ぐっ‥」
「分かりましたか?」
ちょっと威圧を混ぜ込む。
「分かったよ。大した嬢ちゃんだよ。疑って悪かったな。治してくれてありがとうな。」
怖い怖いって言われてる割にちゃんと反省も感謝もするじゃん。
見た目や噂とかで判断したらだめだね。
「いえいえ、それじゃあ帰りますね。」
「ああ、後日改めてお礼がしたい。空いてる日はあるか?」
「別にお礼とかいらないよ。」
「いいから、お礼されてくれ。おすすめの美味い飯をご馳走するからよ。」
この人、的確に俺の興味をつついてくる。
しょ、しょうがないなぁ‥ご馳走になろうかな。
「分かりました。では、3日後に。美味しいの期待してます。」
美味しいご飯への想いが先んじて涎が出そうになっちゃった。
「おう、今日は仕方がないから安静にするぜ。また3日後な。」
こっちも仕方ないからお礼をされよう。
しょうがなくだからね。
うきうきと鼻歌を交えながらこの建物から退出する。
さて、後の時間は治療して行こう!
結局、最後の治療を終えるまでアルフとノートンは一緒に同行していた。
ただ黙って治療を見続けていた変な人達。
別れる間際も何か言いたげな顔してたし、言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
それじゃあ、またね。
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