司教の一日
私の朝は一杯の葡萄酒から始まる。
げっふ、うむ美味しい。
さて、今日は王城に用がある。まあ用と言っても、あの小汚い聖女 アリスとかいう小娘のことだ。
もう聖女が教会に着いたのはトーテルから王都までの移動距離から予測がついていたのだろう。
さっそく呼び出しだ。
何十年ぶりの聖女だ。さぞお会いしたいのだろう。だが、あのような小娘を王族や貴族に会わせるなど虫唾が走るわい。
あの小娘よりも儂の娘ともっと会ってもらいたいものだ、まったく。
儂は従者の手を借り、馬車に乗り込む。
相変わらず狭いのう。聖女の馬車を作る名目でこの馬車を新調してしまうか。
思わずほくそ笑む。
馬車の振動で贅肉をたんと詰めたたるんたるんなお腹を踊らせながら王城に到着。
ここから陛下との対談の場までそれなりの距離がある。
もちろんここからは歩き。しんどい、しんどいぞ。汗をいくら拭っても止められないやめられない。
そんな儂の目の前に第二王子の小僧が姿を現した。
儂の娘を婚約候補に薦めてやったのに素気無く断わりおった小生意気な奴だ。
相変わらず儂に全く興味ないと言うような目つきをしよってからに。
ぐふふ、だが此奴も明日にはいなくなるだろう。
儂が王城に忍ばせておる者が上手くやってくれるだろう。
簡単な挨拶でさっさと行ってしまった。
これが最後と思うと哀れよのう。
そして、やっとこさ部屋にたどり着いた。
ドアを叩くと返事があったので入らせてもらおう。早く座りたい。
ふむ、陛下と宰相か。
「これは陛下、急な呼び出しとは何事でしょうか?」
「よく来たな、ピグオッグ司教。まあ、そこに座れ。」
「はっ、失礼致します。」
ドスンとソファに座る。テーブルにある紅茶が揺れてもうたわ。
「それで何用でしょうか?」
陛下ではなく宰相のロイド殿が口を開く。
「もう教会に聖女様がお着きでしょう。陛下との謁見についての日程合わせをと思いましてね。」
やはり、聖女のことか。
「そうですか。‥‥実は聖女様についてお伝えせねばならないことがございまして‥。」
儂は暗い顔を作る。娘にパパとはもうお風呂入らないと言われた時を思い出せばすぐに表情を暗く出来る。
いつでも涙を出せるぞ。
「なんだ。聖女様の身に何かあったのか?」
「はい、陛下。実は聖女様は王都までの道のりで魔物によって顔に深く傷を負われ、ただいま安静にしております。また本人もこんな顔では人前に出たくない。人と会いたくないと申しております。酷く心を痛めたのでしょう。」
「なん‥だと。そんなことが‥。では、会えないのか?」
「はい、聖女様ご自身が拒絶しております。」
ふむふむ、甘く優しい陛下は信じてくれそうだな。宰相はまだいまいち信じきれてないのう。
素直に信じれば良いものを。
「司教1つ聞きたいことがあります。聖女様なら自身の力で傷を治すことが出来るのではないですか?」
ふん、やはりそう思うか。
だが、事前に考えておったわい!
「宰相殿、私もそう思い聖女様にお伝えしたのですが、ご自身の傷は治せないようです。陛下、他国に居られる他の聖女様方に自分の怪我を治す御方はいらっしゃいましたか?」
聖女様は基本安全な場所での治療が殆どだ。怪我をする事などそうそうあり得ない。
だから、本人以外に聖女が自分の傷や病気が治せるか分からない。
ましてや、この国は何十年ぶりかの聖女。分かる訳がない。
「確かに見たことが無いな。しかし、せっかく我が国に聖女が誕生したというのに‥。」
陛下も宰相も沈痛な表情だ。
儂も乗っかっておこう。
陛下達との話も終わり、馬車で屋敷に戻る。
ふふ、完璧だ。
何もかも全て儂の手の平の上で転がされておるわ。
今晩のお酒もまた格別となるだろう。
ぐふふふふふげっふ。
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