軽めの特訓



トーラスさんに運動場所を提供してもらった。

走り回るには小さい庭だけど良かった。

狭い範囲での簡単な特訓だけしていこう。

何もしないよりかはマシだもんね。


まずは右手人差し指1本で支えながら指立て伏せ。

教会での特訓初日だし右手左手交互に100回ずつやろう。

一回一回を30数えながらゆっくりとね。


1時間と少しで終えた。

良い感じに体も温まってきたかな。

本当はこの後村でだったら近くに転がっている大岩を持って屈伸運動をするんだけどなぁ。


無い物はしょうがない。


次は爺ちゃんに教えてもらった奴をやろう。


それは、想像を膨らませ目の前に精密な

幻想を作り出す。そしてそれと戦闘を行なう。

爺ちゃん曰く、『儂はある書物を参考にこの特訓を取り入れておる。綿密な想像で生まれた幻想は体現し襲いかかってくるぞ。』と。


最初は何言ってんだと思ってたけど、目の前で実際に見えない何かと戦って怪我している爺ちゃんを目撃した事がある。


だから俺は、確かな実績と信頼の元にこれを取り入れる。


狭い庭での戦闘という縛りで想像する。

今回は二本の鋭い刃を腕に持つグレートマンティスという虫型の魔物にしよう。


村の近くの森で沢山相手をしてきたから、かなり細かく思い浮かべれる。

徐々に目の前にこちらへ刃を構える姿が生まれてくる。


よし、こんなもんだろう。

いざ、尋常に勝負!


いきなり首目掛けて振り下ろしてくる。

咄嗟に後ろに退がるがなおも追撃は止まない。

あ、やばい、花壇にぶつかる。


やっぱり少し体が鈍っている。

花壇を守るため、刃を受け止めたけど手のひらを少し切ってしまった。情け無い。

反省しながら、刃を掴んだまま体を回転させあらぬ方向に折り取る。

そして、高く跳び、苦しそうに呻き声を上げる其奴の脳天に折った刃を突き立てる。

幻想は霧散していく。


まだまだ実力が足りないな。

自分の手のひらの切り傷を見て溜息が止まらないよ。

まだ戦闘しながらだと聖女の力を使えない。

こうやって、ちゃんと意識しながらだったら使えるんだけどなぁ。


あまりの自分の体の鈍り具合に夕方までやることにします。




そして、空はすっかり茜色。

最終的に五体同時の戦闘も行なって汗ダラダラ。

空を見上げながら大の字で仰向けに倒れる。色んな花の香りが鼻腔をくすぐる。


傷は治したから無いけど、服はドロドロ。

聖女がこんな泥だらけになるって大丈夫かな。怒られる?

子供がはしゃぎ過ぎた程度に思ってくれれば良いけど‥。



休憩がてら倒れたままボーっとしてたら、裏口の扉が開く音。

顔だけ向けるとそこにはロコルさん。

へぇーここにはロコルさんも来るんだ。


俺の存在に気づいたようだけど、目を見開いて驚いた様子で固まった。


どうしたんだろう?うぉっ!?



ドドドドドと音を立てながら一気に接近。凄い脚力。お姉ちゃん、世界狙えるよ。



「ど、どうしたですか!?だ、誰かに何かされたんですか?」


鬼気迫る表情で心配される。


「ご心配お掛けしてすみません。ただここで運動をしていて泥だらけになっただけですよ。怪我もしてません。」


「ほ、本当ですか?」


「ええ、本当です。」


念の為なのか俺の体中を点検してくる。

どこにも怪我無いのが分かったのかホッとしてる。


「な、何事も無くて良かったです。」


「ついつい庭ではしゃいでしまいました。ふふふ」


「そ、そうですね。アリス様はまだ12歳ですもんね。」


納得頂きありがとう。

でも、汚れたままは不味いのかすぐにお風呂場に連れて行かれた。

教会で暮らす人もいるという事でトーラスさんが設置したらしい。

トーラスさんほんと有能。


爺ちゃんの作った風呂に比べたら、劣るけど充分気持ちいいです。


ただロコルさんも強引に誘って一緒に入ったけど、少し落ち込みました。




ロコルさん、いやロコル師匠だよ。

俺もそのうち大きくなるのかな‥。






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