ブヒブヒブーブ



目の前に座る贅肉を身に纏うおっさん。

流れからして司教なんだろうけど、会ってすぐに分かる。こいつは敬意を表す相手とは思えない。


そんなおっさんが俺を見た。


「ふん、お主が今代の聖女か。まさか貴族からではなく平民などから生まれるとは。嘆かわしいことよ。」


すげー初対面でいきなり馬鹿にされたよ。こちらを舐めきった目で見下す豚。

本当に司教かよ。


「ピグオッグ司教ご無沙汰しております。ただ聖女様に失礼かと。彼女は平民であろうと立派な聖女様でございます。」


ずっとぷるぷる震えていたエルドさんが俺を庇ってくれる。

この豚の名前はピグオッグね。まあ覚えれたらいいけど‥。

随分と貴族至上主義みたいだね。

でも、挨拶はしとくか。


「初めまして、ピグオッグ司教様。私は聖女の証を承りましたアリスと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


決まり文句のように微笑み付きで挨拶をする。


「ふん、一応は敬語を勉強して来たようだがいい気になるなよ。他国にいらっしゃる聖女様に比べ、なんと見窄らしい姿か。王族や貴族の方々に見せるわけにはいかん。大人しくこの教会で引きこもっておることだな。なーに上手く上には伝えておいてやる。」


にたりと笑う豚。


「ピグオッグ司教!目の前におられる御方は聖女様です。あなたのその態度はなんですか!敬意を示すべきです!」


「黙れエルドよ。たとえ聖女だろうと平民を敬う気にはなれんよ。」


「なんっ‥!」


ますます憤るエルドさんの肩をポンと叩き制する。

怒ってくれてありがとう。


でも、面倒くさそうな貴族社会に関わらなくていいなら好都合だよ。


「分かりました、ぶ‥ピグオッグ司教。私のような聖女は今後貴族様の方々と絶対関わらないように致します。」


「ふんふん、よい心掛けだ。では、私はそろそろ屋敷に戻るとしよう。トーラスよ、その聖女のことは頼んだぞ。」


「はい、かしこまりました。」


そう言ってゲップをかますと、のっそりと重い腰を上げて奥にもあった扉から出て行った。


「トーラス殿、あの司教の態度はどういうことか!」


エルドさんの額に浮かぶ青筋が凄い。俺の額にある聖女の証といい勝負だ。


「申し訳ございません。あの方は以前からあのような態度でして、教会にいる助祭たちにも貴族か平民かで態度を変えるのです。」


トーラスさんはどでかい図体をこれでもかと縮こまらせて謝ってくる。

昔からかぁ。その病は聖女の力でも治んないかもね。


「聖女様まさか司教があのような者に変わっているとは思いませんでした。不快な思いをさせて申し訳ございません。」


エルドさんが会ったのはあの司教じゃなくて別の司教か。


「エルドさんが謝ることではございません。私はただの小さな村の女の子でした。貴族の礼節も知らない私では確かに貴族の方々に失礼にあたるかもしれません。私は気にしてないので大丈夫ですよ。」


平気だよと笑う。


「聖女さまぁ‥」


エルドさんがうっとりしている。

大丈夫?



「聖女様、申し訳ございませんでした。私の立場ではあの方に強く言えずこのような形になってしまって‥」


黙ってみていたトーラスさんが改めて謝罪してくれた。

気にしてないよ、そりゃあ上の立場には強くいけないよ。

むしろ、あの司教の下でよく頑張っているもんだ。


「トーラスさん、私は気にしていませんよ。それよりも今後私はどうすればよろしいのでしょうか?」


「は、はい!」


面倒くさそうな貴族達との対面が無くなったのは幸運。

その行程が無いなら、自由に動ける時間があるのでは。

なんとしてでも屋台飯を全制覇したい。



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