暇を持て余した聖女様1日目



俺の住む村まで馬車を走らせている。歩いて3日が馬車だと2日で済む。ぶっちゃけ1人で走って帰った方が速いけど、この人達の優しさを無下には出来ない。


馬車生活1日目。

まずこの尻に来る衝撃に慣れないとな。

馬車が大きく揺れる度に俺の小さな体が躍動する。その都度エルドさんやカーラさんが心配そうに声をかけてくるから申し訳ない。


不意に馬車が止まる。

どうやら魔物が数体現れたらしい。窓から覗くとそれはゴブリンだった。8匹くらいか。人数差はあれど、感じる力量差は騎士達の方が強い。問題ないだろう。

爺ちゃん以外の戦いを観れる良い機会、しっかり勉強させてもらおう。


眺めてて分かる彼等の連帯感。ゴブリン共の付け焼き刃のものとは違う。何度も何度も繰り返し練度を高めた連携。

俺のような一対多数の戦いともまた違う。

非常に面白い。

ついつい味方の彼等が俺と闘ったらどうなるか想像して口元が緩くなってしまう。

馬車の中でずっと退屈だろうと思ってたけど、思わぬ収穫。

でも、心の中に溜まっていく闘いたい欲求を抑えるのが大変だ。

結局、ゴブリン共はなす術なく全滅した。

騎士達は少し呼吸に乱れがあるものの、みんな無傷。いいねいいね、闘いたいね。


「大丈夫ですよ。魔物は全て倒しました、安心して下さい。」


俺が震える戦闘本能を抑えている姿が、怖がって怯えていると思ったのかカーラさんが背中をポンポンしながら慰めてくれる。


ごめんね、怖くないよ。でも、ありがとう。


そして、本日泊まる村に到着。俺が住む所の2つ前の村だ。

サイルさんが先に向かい、村長に話をつけてくれる。どうやら、村長の家の一室を借りることが出来たようだ。

でも、馬車から降りると村の人達が恭しくお出迎えするのは勘弁して欲しい。

聖女なりたての俺にはどう対応していいか分からない。

ぎこちない笑顔で会釈しながら村長の家に入る。


泊めてもらうだけでも有難いのに、ご飯までご馳走になった。簡素な料理しか出せなくて申し訳ないという村長夫妻。

いやいや、普段自分で作っている料理よりも何倍も美味しいよ。

俺なんて肉に塩かけて食うぐらいしか出来ないもん。

それに俺らの突然の訪問に自分たちの食糧から提供してくれたんだ。

そんなご飯が不味いわけがない。


せめて、御礼をしないと。

といっても、差し出せる物がない。どうするか悩むうちにふと自分の両手を見つめる。

そうだ、俺には聖女の力があるんだ。


この村の人達で怪我や病気の人を治そう。初めての使用だから上手く出来るか分からないけど。


俺は、エルドさんと村長にその旨を伝える。

エルドさんから快く許可が下りたけど、肝心の村長が遠慮してくる。


「村長さん、お‥私は昔から恩を受けたら必ずその恩に報いろと教えられてきたです。だから、どうかこの力を村の人達に使わせてく‥ださい。」


「せ、聖女様‥」


瞳に涙がたまる村長夫妻。

サイルさんとエルドさんは目頭を押さえている。

ご、強引に言い過ぎたか‥



「聖女様どうかお願いいたします。」


良かった、許可下りた。

やっぱり借りっぱなしは気持ち悪いからね。


「任せて!」


親指を立てて拳を突き出す。

そして、村長夫妻と騎士達との声掛けもあってか村長の家に人が沢山集まってきた。

怪我人以外にも見物で来たってのもいるな。まあいいけど。


さて、やっていきますか。


最初の患者は、腕に布を巻いている。解いてみると獣に引っ掻かれたような痕がある。

よし、治療だ。

聖女の力の使い方はよく分からんけど、その怪我の部分に手を翳して治れと祈ってみよう。それっぽい使い方だからいけるはず。


「おぉ‥綺麗だ‥」


誰かが感嘆を洩らした。

額の聖女の証が輝き出し、俺の体を温かな何か流れる。

そして、その輝く光が怪我人の腕に移っていく。見る見るうちに傷が塞がり、跡形も無くなる。


「凄い‥これが聖女様の御力。」


エルドさんは崇拝の目で見てくる。いや、エルドさん以外の人達も同様の眼差しだ。

使える力を使っただけだから勘弁して欲しい。



その後も、怪我や病気を患う村人達を治療していく。

もう30人以上は治したのに疲れは感じない。聖女の力ってすげぇな。


最後の1人を終えて、色んな方向から感謝の言葉が次々と飛んでくる。


なんか照れ臭くなったので、そそくさと家の中に。

でも、お借りした布団に潜るギリギリまで村長夫妻が御礼を言ってきました。





感想:聖女ってなんかすげぇけど大変と思いました。

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