第5話 なぜ部室に鍵が?3
「さあ太一教えてくれよ」
我慢ならないという感じで慎吾が聞いてくる。俺は部室に入る所から思い出しながら答えることにした。
「まず最初に、なぜ部長は俺の名前を知っていたんだ。」
「そりゃ誰かから聞いたんじゃないのかな?顧問の先生からとか?」
ご明察。俺は軽く親指を立てて称賛した。もっとも、慎吾は続きを期待する表情でこちらを見ているが。
「そして匂いだ。部室はどんな匂いがした?」
慎吾は少し考える表情をする。
「柑橘系かな?なにか芳香剤の匂いがした気がしたよ。」
「そして窓は?」
「・・・・・開いていた。」
そう。芳香剤の匂いがするのに開いていたのだ。窓が開いているのに芳香剤の匂いがするというのは、よほど匂いを気にしているか芳香剤を床にぶちまけない限りしないだろう。
「そこまでして気になるものと言えば?」
「・・・におい?」
「そうだ。においが気になるというのが妥当な所だろうよ。芳香剤を使って、窓を開けてまで消したいにおいとは何だろう?彼ぴっぴの為に焦がした料理を隠しているの!なーんて言うことは無いと思うがな」
「じゃあ、つまり」
「そう。俺は煙草だと思った。高校生が部室で煙草。そのためにわざわざ鍵を締め、換気のための窓と、においの芳香剤。4階の一番端の教室でここはめったに人が来ない。教師の目も届きにくいだろう。だからお目付け役として先生から俺たちが選ばれたって所じゃないか。」
「・・・なるほどね。意外だけど納得したよ。だから先輩が渡辺君と最初に呼んだという事なんだね。」
そう。だから体に悪いと忠告したが、どうやらもう禁煙には成功したらしい。先輩には残念な事かもしれないが、お目付け役と部活を一緒に過ごすより、後輩として部活を過ごした方が楽しいと思っての事だったが。
渡り廊下をまたもや渡り、職員室に戻る途中。慎吾がぽつりと言う。
「寂しかったのかな」
俺は意外そうな。驚いた顔をしていたのだろう。慎吾がげらげらと笑いだす。
「この野郎笑ったな!」
「逃げるが勝ちさ!」
二人で廊下を駆け抜け職員室まで行く。こんな青春も悪くはない。ふとそう思った春の日であった。
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彼らの足音が遠ざかるのを聞き、椅子に深く腰掛ける。どうやら体に力が入っていたらしい。
それにしても。それにしても面白そうな新入部員が入ってきたものだ。こっちの事情がバレているのかと思い、渡辺君とわ・ざ・と・読んでみたのだが、部長ですか?と返してきた。事情がバレていないと思ったのも束の間、においの事や密室の事に触れ、体に悪いとまで忠告してくるとは。
面白い高校生活がいよいよ始まりそうだ。こう思うと自然と笑みがこぼれるのも間違いではない。ふんふーんと鼻歌を歌いながらぽっけから鍵を取り出し帰る準備でもする。
おっとそうだ。今日は社会科室の鍵を・職員室に返さないといけないのだった。忘れないようにと胸ポケットからも社会科室の鍵を取り出す。
そうして彼女は慣れた手つきで社会科室と準備室の戸締りをしていく。そうして準備室からでた彼女は最後の戸締りを行い、二本ある鍵のうち一本は職員室に返すため手に持ち、もう一本は鞄にしまった。
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