第3話 なぜ部室に鍵が1

「はじめまして渡・辺・君・。」


 知らない人から名前を呼ばれるほど有名人ではない。しかし姉さんが手を回していたに違いない。100%部長であることは間違いないが、一応聞いておく。




「現代部の部長ですか?」


「ああ、そうだとも。入部届けは持ってきたかい?」


 はい。と言って部室に入り、二人で手渡す。芳香剤の柑橘系の香りのような、そんな良い匂いがする。そして部長さんが入部届を眺め、ハンコを押してもらうのを待っていると慎吾が尋ねてきた。


「ねえ太一。部室の扉を開けた際には、確実に扉に鍵は掛かっていたのかい?」


「一回開けようとして開かなかったからそうだろ。」


「じゃあここは密室だったということにならないかい?」


 確かに慎吾の言うとおりである。密室の中、部長は一人でいたのか?部屋に何かヒントは無いのか準備室を見渡す。真ん中には長方形の大きな机がおかれており、椅子が4つ置いてある。そして壁には郷土の歴史やファイルなどが刺さった本棚がある。そして扉。・・・扉?と考えていると、どうやら入部届を見終わったらしい。


「よし。入部を認めよう。ようこそ現代部へ!活動は基本的に火曜日と金曜日で、校舎が閉まる17時までだからね。今日はもう遅いから入部届を出したら帰って良いよ。」




 部長から入部届を受け取る。そして慎吾が尋ねる。


「この扉はどこにつながっているんですか?」


「ああ、この扉か。この扉はほら。」


 立ち上がり、扉の鍵・を・開・け・る・|。そこは社会科室であった。2人が不思議そうな顔をしていたのがおかしかったのか、半笑いのような顔になり、


「どうしたんだい。二人とも。狐に化かされたような顔をして。」


「この部屋に先輩が閉じ込められていた気がして。」


 と慎吾が答える。すると部長はおかしそうに、大声で笑い始める。何がおかしいのかと思っていると、笑いが収まってきた部長は言った。


「ふふふ。優しいんだね。慎吾君。」


 下の名前で呼ばれたのがうれしいのか、いやーと言い、照れた顔になる。ちょろいやつめ。


「社会科室の掃除だったから、そのまま社会科室から入ってきたんだよ。鍵はほらここに。」


 と言って胸ポケットから鍵を取り出す。気恥ずかしくなり、横を見ると動作を逃すまいと慎吾はガン見していた。見ないようにする俺と見ている慎吾。どちらも高校生という事なのであろうか。


「ね。本当でしょ。」


 という部長の声で我に返ったのか、慎吾はなるほど。と真面目な顔で呟く。そして入部届を持ち出ていこうとするタイミングで俺は言った。


「本当の事を教えてください。」


 と。

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