第31話 文化祭の準備に生徒会はおおわらわ
時期がいろいろ過ぎて、高校生活での大イベントの1つの文化祭の準備がはじまった。
実際に文化祭が行われるのは9月下旬である。
夏休み明け最初のテストの結果からの生徒会役員の入れ替えがあるため、後期の生徒会メンバーの仕事に本来はなる。
だが、その前に7月下旬からはじまる準備を担当するのは、俺達の前期の生徒会役員であるし、引継ぎをしながらのタイミングが文化祭になるので、事実上は俺達も文化祭には大きく関わることになる。むしろ、準備をきちんとしなければいけない分、俺達の責任は重い。
と、いうわけで、今日の生徒会活動は去年の文化祭の活動記録を纏めた資料などを5人で眺めているという時間である。
「去年はかなりすごかったよな、俺はちょっとしか参加できなかったど印象に残ってるよ」
「それはもちろん、お姉さまが主導で文化祭を仕切っていたんだもの。華麗で清楚で神聖なすばらしい出来になるのは当然だわ……」
「そ、そこまですごいことをやった覚えは無いんだけどな~」
俺の発言に真理亜が食いつくが、相変わらず大げさで、優希先輩を苦笑いさせている。
「九十九パイセンが2期連続で生徒会長を務めたことも大きいだろ、引継ぎの手間がかなり少なくなったからな」
「僕はこの時期は受験勉強してましたから、あまり知らないですね」
「翔先輩もそうされたらいいんじゃないですか?」
「そうだな……、でも大変そうだな」
この学校の生徒会役員に立候補できる条件は成績のみで、2期連続で同じ職を勤めることは認められていないわけではない。
だが、この学校で生徒会役員をつとめた実績があるということは、進学や就職において、少なからず武器になる。
星野高校は、この辺りではなかなか有名な高校であり、生徒会役員が成績優秀者でないとなれないことも、良く知られている。
つまりは、生徒会経験者はそれだけで、成績が良いことがすぐに分かる。
また、部活動が多くて、行事も少なくない、この高校では生徒会役員の仕事の範囲は広く、なかなかやりがいがあるため、信任投票にはなりにくい。
俺と真理亜以外にも、会長への立候補は3人いたのである。書記と会計も3人ずついた。
生徒会役員をやりたいという生徒が多いこともあって、2期連続で生徒会役員を勤めるのは、暗黙の了解でないことになっていた。なので、仮に2期連続を狙って立候補しても、票をもらう難易度は、1回目と比べて跳ね上がるということだ。それでも当選した優希先輩は、それだけカリスマ性が高いということだろう。
俺の役職である会長は、ライバルも多く、特に2期連続で副会長になっている真理亜は次の会長として、票を受ける可能性も低くない。
「翔と孝之は生徒会続けんのか?」
「俺は考えてるところだな。家の道場の手伝いも忙しくなりそうだし、会計の1番のやりがいの予算配分は、後期の生徒会には無いし、九十九パイセンもいねぇし」
「僕は、後期は家の手伝いをするので、立候補しません。翔先輩が残るなら、お手伝いくらいはしますけどね」
「私は次こそ、会長になるんだからね。桂川君がどうしようと勝手だけど、私が勝つから!」
いや、真理亜には聞いてないし。というか聞かんでもわかる。
「そうか、ということは、後期は優希先輩もいないから、残るとしても、俺と真理亜ってことか?」
「2人も残ったら多いくらいだよ。去年も私以外は全員入れ替わりだったしね」
「そうですね、まぁ立候補する前に、成績の問題もありますけど」
「学年1位のする心配じゃないだろうがな」
「1位だからだよ、2位になったら、それは成績降下ってことだからな。まぁ、それはまたいいか。とりあえず今は仕事だ仕事。雑談が長くなった」
そして、また作業に戻る。
後期の生徒会か……。会長でなくなると、奨学金は減るが、アルバイトの数はその分増やせるから、どこいどっこいかな。最近バイトが減って、出てくれって頼まれることも多いし、あまり頑張ってまた倒れたりしても悪いしな。また考えよう。
「去年は劇をやるクラスも多かったですけど、うまく時間配分をして、平等にできてたんで、かなり評判よかったですね」
「模擬店もほぼ完璧だったわ。ゴミ箱の設置や、使い捨て容器の十分な設置、紙おしぼりの発注ももちろんだったけど、1番は、3日前から、学校をピカピカにしてあったことね」
「ああ、あれだけ、綺麗じゃ、ゴミや食べこぼしを落としたら、拾わないと悪い気がするもんな」
「僕も見に行きましたけど、部活動ごとのパフォーマンスの場所とかもあって、パーティーみたいでしたね」
俺達4人で盛り上がって、改めて去年の出来のよさを理解する。
「え、えーと、そんなに大それたことはしてないよ」
話をしているうちに、やはり優希先輩はすごいと思い、みんなで眼差しを向ける。
「去年のアンケートは軒並み好評だな。去年のやり方を踏襲して見るのがいいんじゃないか?」
「孝之、俺もそうは思うんだが、全部が全部一緒じゃいけないし、そもそもできるのか心配だ」
「私も珍しくだけど、桂川君に同意するわ。去年の前期の生徒会は、お姉さま以外のメンバーもかなり優秀で、それだからこそできたことも多いと思うの。まったく同じことは出来ないと思うわ」
「ですけど、去年より悪いと思われるのは嫌ですよね」
「あ、あのー、本当に、そんなに私すごくないから……、えーとね。去年は去年、今年は今年でいいと思うの。レベルとかクォリティとか気にしなくて良いんだよ。去年と全く同じじゃ、2、3年生はつまらないでしょ」
「はい、それはもちろんですね……、だとすると、もういっそのこと新しいものを作りますか?」
俺は思い切ってそういった。他の4人は、困惑やら期待やらでいろいろな表情をしている。
「メンバーが違えば、文化祭の中身は違うんですけど、2年前以前のデータを見ても、ある程度の基盤というが、基本的なルールはあるんですよ。もちろんそれを踏襲すれば、それなりのものはできますけど、新しい前例を作ってみるのも面白くないですか?」
「面白そうですね。僕はいいと思います」
「地味にいろいろ変えて失敗するくらいなら、いっそのこと全部変えて失敗しようってことか。いいんじゃないか?」
「いや、別に失敗する前提じゃないけど」
孝之、幸助は賛同してくれる。
「でも、新しいことをやるのはやっぱりリスクは小さくないと思うわ。それに、引継ぎの問題もあるし」
真理亜はやや思案顔である。
ただ俺への対抗での反対意見ではなく、一般的な意見である。真理亜はよくも悪くも俺と考え方が違うから、結構俺の意見に対して、けっこういい意見をくれることも少なくないのだが、感情が高ぶるとヒステリック化するのが難点である。
「それは大変だとは思う。でも、いろいろ新しいことに挑戦して、自分達で盛り上げたほうが楽しくなるんじゃないかな? 失敗しても許されるのが俺達の学生の特権だろ? それに、新しいことに挑戦して大変だって分かってるところに、立候補してくる生徒なら、引継ぎは大変かもしれないけど、十分任せられるじゃないか」
「副会長先輩は、怖いんですか?
「怖くないわ! いいわやるわ! 桂川君に気後れして、物怖じしてるなんて思われたくないもの。私が後期の会長になって、文化祭を大成功させて見せるわ!」
いつものややヒステリックも、今回は発言の内容がたくましいので、安心できる。
「失敗を恐れないで、新しいことに挑戦する……。皆すごいね。私はそんなこと考えもしなかったよ」
「もし失敗しても、きっと皆笑って許してくれますよ。お菓子とお茶でなんとかなります」
「いや、ならんだろ。それよりも九十九パイセンと一応副会長が水着にでもなればいいんじゃないか?」
「おい、2人とも俺でも怒るぞ。まず失敗する前提で考えるなって」
「そうよ! それに私をおまけみたいに! ……、でもお姉さまのそんなお姿が見れるなら……」
「あはは、私を見てもやらないよ」
「じょ、冗談ですよ。やるからには、やっぱり勝ちにいかないといけませんからね」
「俺は九十九パイセンが何かしてくれるんなら、負けても買ってもいいんだけど」
「次ふざけたら、抹茶のめちゃくちゃ苦いやつの刑な」
孝之が相変わらずなのでたしなめる。
「当然よ! 成功目指して頑張るわ!」
「翔君はこれだけのことを言ったんだから、何かいい案を持ってるんだよね?」
「えーと、それを考えるんですよ、今から」
「うん、皆で考えるんだよね。ごまかさなくてよろしい」
今のは試されてたのか。ヒヤッとした。
「ボランティアの人に協力してもらって、模擬店の規模を上げるのはどうかしら?」
「今までは19時までが文化祭でしたけど、21時くらいまでなら、皆23時までに家に帰れるから、それで夜の企画を立てるのはどうですかね?」
「ミスコンとか、仮装パーティなんて見てみたいな~」
そんな感じでとりあえずブレインストーミングをして、意見をたくさん出しまくってみた。
その上で、何とかなりそうな案をいくつか幸助に書いてもらって、まとめてみた。
「文化祭の時間が長くなったり、ボランティアの協力を受けられるようになれば、クラスごとの出し物の規模も広げられるから、この2つは出し物が決まる前に、できるかできないかはっきりさせておいたほうがいいな。じゃあ、文化祭成功のために、皆がんばろう」
そして、全員が笑顔でこぶしを突き上げた。
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