第29話 両手に花だが刺さりそう

「あら? 会長さん、何してるの?」




俺が3年生の教室を歩いていると、女子生徒に声をかけられた。




「あ、副部長さん」




その人はお菓子同好会の副部長で唯一3年生だった人だ。




「あ、ちょっと優希先輩に用事がありまして」




「優希ちゃん? だったら呼ぼうか? 同じクラスなんだ」




「あ、そうだったんですか。結構会ってるのにしりませんでした」




「おーい、優希ちゃん、会長さんが来てるよ~」




部長さんは優希先輩を呼んでくれる。




「あ、翔君、何か用事かな?」




「いえ、この前のお礼を改めてしておこうかと思いまして。ありがとうございました」




俺は優希先輩に先日迷惑をかけたことについてのお礼を言いにきたのである。






「そんなこといいのに」




「いえいえ、それでもお礼を言いたかったんです」




「会長さんはしっかりしてるよね。うちのクラスの男子よりも、ちゃんとしてるもん、さすが会長。やっぱり優希ちゃんがしっかり指導してるのもあるんだろうね」




「ふふ、そんなことないよ。翔君は元々こんな感じだよ」




3年生の教室の前で、先輩女子2人に褒めちぎられるというのは非常に恥ずかしい。




ちなみにだが、副部長さんも、結構美人であったりするため、3年生からの羨望の眼差しがなかなか痛い。




「あ、このしっかりした会長さんをせっかくだから、誘っちゃおっか?」




「うん、いいね。翔君、時間とれる? あ、でもテスト勉強があるかな?」




「い、いえ、ちょっとならいいですよ」




「じゃあ一緒に学食に行こうか?」




そして、俺は2人に連れられて、学食に向かう。






「はい、どうぞ」




俺の目の前には、金箔が散りばめられたチョコレートケーキが置いてあった。




「な、じゅる、何でじゅるり、ケーキがじぇてくるんですか?」




「うん、とりあえず落ち着いてよだれを拭こうか?」




副部長さんが、俺にそう言ってくる。




「北山高校の洋菓子研究会と、活動する機会があって、今日の朝もらったの。いろんな人に配ったけど、まだ余ってるから、どうしようかと思ってたところに、会長さんが来たから、おすそ分けだよ」




「ありがとうございます~」




実にありがたい。チョコレートなんて、高校に入るまでにいつ食べたか覚えていないくらいしか、食べていないのに、2年生になって、これで2回目。しかも2回ともただ。これが生徒会長になった特権というわけなのだろう。




しかも、学園のマドンナと言っても過言ではない優希先輩、そして、その優希先輩と並んで美人である、副部長さん。甘い味に甘い空間。俺は生徒会長になるまで、女子とこのように過ごせることはなかった。


俺の積極性がないのもあるが、俺に時間が無かったのもある。ついでにいうと、女子みたいな男子があいたから、あまり欲が出なかったのもある。今の俺はまさに学園生活という感じだ。




周りからの視線はものすごく痛いが。




「じ~」




俺がそんなことを考えつつも、夢中でケーキに食いついていると、副部長さんからかなり目線を受ける。




「ど、どうしました? 顔にチョコついてます?」




偶然目があっただけかと思ったのだが、明らかに目線がロックオンされているのが分かる。




「いえ、会長さんはかっこいいなって思って」




「ぶ……」




危ない危ない。危うくケーキを吐き出すところだった。漫画とかだとよくあるが、あれは片付けも面倒だし、食べ物がもったいないだろう。




「きゅ、急に何を言ってるんですか。俺は全然ですよ」




「先輩の女子2人とお茶してるのに、そんなこと言ったら、周りに怒られるよ」




「こ、これは誘ってくれたからですよね」




「私だって、誰でも誘うわけじゃないよ。優希ちゃんのお気に入りの後輩だからって、私が嫌なら誘わないから」




あまりにストレートな言い回しに、すごく恥ずかしくなる。言ってるほうが恥ずかしくならないのか。




「俺のどこがかっこいいんですか? 顔なんて全然ですよ」




「うーん、確かに顔はめちゃくちゃかっこいいってわけじゃないけど……」




「あ、そこは普通に言うんですね」




別に俺はそうは思っていないけど、一応かっこいいと言ってくれた人にそう言われるとちょっとへこむ。




「でも、イケメンの人ってそんなにいいと思わないな。会長さんは、がんばりやだし、しっかりしてるし、自分のこと自分でできるし、自立してるって感じは大人だなって思うから、それがかっこいいって思うな」




「別に俺くらいなら、誰でもできますよ。それに俺は必要だから、やっただけで自分を磨くためにやったわけでもないです」




本当に褒められるようなことはしてない。それに、俺が努力をした理由はたった1つしかない。




「それでもいいんだって。お菓子同好会の子にも、会長さんけっこう人気あるんだよ。いつも美味しそうに食べてくれてるし、大体のことしっかりこなせてるから、かっこいいって」




「そ、そうなんですか。やっぱ会長になると違うもんですね」




まさかのモテ期間到来。




「翔君はずっとかっこよかったよ。ただ、会長になって、皆が魅力に気づいただけだからね」




俺の発言に、優希先輩が笑顔で言ってくれる。優希先輩に言われるのは、とても嬉しい。




「へ~、ふ~ん」




「な、何?」




「別になんでもないけど~。優希ちゃんがね~」




「な、何か言いたいことがあるなら言ったら?」




「だからなんでもありませ~ん。ただ、私はお邪魔かなって」




「もー、からかわないの」




優希先輩が子供っぽく怒る。同学年の友人と過ごしてるときはこんな感じなんだな。




「あ、せんぱーい。お待たせしました」




「あ、いらっしゃい」




遠くから聞こえた声に、副部長さんがこたえる。




「誰か呼んでるんですか?」




「うん、後輩の子が1人会長さんがいるって言ったら、来たいって」




「もしかしてですけど」




「桂川先輩、一緒に失礼します!」




俺に告白してきた1年生だった。うーむ、修羅場。




「呼んでいただいてありがとうございます」




とても朗らかな笑顔だが、俺はやや気まずい。だが、気まずい雰囲気をかもし出すと、優希先輩に何か悟られるかもしれない。ここは自然に振舞わねば。




「そうですね、桂川先輩はかっこいいですよね」




あ、まずい。この話題になると俺は自然に振舞いづらい。いきなり積んだ。




「芸能人で言うと、リョーくんに似てるんじゃないかな?」




副部長先輩がそう言うと、




「そうですか? 確かに芸能界にいるのに、スキャンダルの無い真面目な感じは似てますけど、私はどちらかというと、海田くんです」




後輩の子はそういい、




「ああ、見た目は確かに似てるね。でも、あんなに熱血系じゃないから、私はアッキーかな?」




優希先輩はそう言う。




やばい。全く分からん。そもそもテレビほとんど見ないからな。




「「ああ、似てますね。ちょっとMっぽくて、先輩に従順なところとか」」




「そ、そういうつもりで言ったんじゃないもん!」




よく分からんが、Mっぽい上下関係が分かる人に似ていると思われているようだ。




「桂川先輩は誰かに似てるって言われないんですか?」




「俺は全く分からん。芸能人とが全然知らないんだ」




俺がそういうのがほとんど分からないので、友人やアルバイト先では俺にそう言う話題は暗黙の了解で振られない。




「会長さんはいつも頑張ってるけど、何か娯楽はあるの?」




「そうですね。中学生くらいまでは、特に何もなくて、家の手伝いしたり、友人と遊んだりしてましたけど、勉強して、アルバイトするようになってからは、空き時間は、安いスーパー探したり、手芸したり、ボランティアしたりですかね」




「なんか、20代OLの趣味みたいですね……」




後輩に苦笑いされる。まぁ仕方ない。俺にはお金を使う趣味は難しい。




「優希ちゃん。会長さんが勉強ばっかりで、頭でっかちになりそうだよ。何か協力してあげたほうがいいんじゃない?」




「うん、何か考えてみようかな?」




「私も相談乗りますよ!」




そして、そのタイミングで休み時間が終わりお開きとなった。




あんまり長い時間修羅場が続かなくてとりあえず肩の荷が下りた。

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