第25話 体調不良な生徒会

「これじゃ生徒会活動は難しいか?」




定期テストも終わって、春から夏に向かおうという時期。




だが、気候はなかなか安定しない。夏のような暑さを見せたと思えば、肌寒いほどの悪天候。




これだけ1日ごとに気温や気候が変わっていけば、必然的に起こる問題がある。




「そうだね~、皆体調崩しちゃって……」




現在生徒会室には、俺と優希先輩しかいない。




他の3人は生徒会活動に参加できていないのである。




孝之はもう2日前から風邪でダウン。あの健康優良児な見た目に反して、気温の変化に弱く、結構学校を休む。




真理亜も昨日体調不良で早退した。




生徒の模範になるべき生徒会が、風邪で休むわけにはいかないとかいって、強引に生徒会に来ようとしたが、優希先輩に注意されて、帰宅した。




幸助は体調は崩していないが、幸助の父さんが体調を崩したため、家の手伝いをちょっと多めに手伝うということで、最低限の作業だけ行って先ほど帰った。




「と、いうわけで、ここには2人しかいないというわけですね」




「うちのクラスも結構休んでるよ。みんな心配だよね」




1、2年生の欠席は、人にもよるが、そこまで悪いことではないだろう。




ゆっくりと休めるし、真理亜みたいに普段頑張りすぎな生徒のいい休憩にはなる。




だが、3年にとっては、今はなかなかデリケートな時期。ラッキーとはなかなか思えないだろう。




「翔君は大丈夫なの?」




「俺は体調を崩したら、死活問題ですから」




医療費にお金をかけるような余裕は無い。体調を崩したことがないわけではないが、意地で耐え切った。




幼稚園から通算しても、体調不良を理由に学校を休んだことは無い。俺が休んだのは、忌引きのときと、学級閉鎖になったときくらいか。




「優希先輩は大丈夫ですか?」




「うん、私は平熱が高いから、あまり風邪は引かないよ、手が暖かいでしょ?」




そう言って、俺の手を握ってくる。




今日も天気が悪くて、肌寒いくらいなのに、指の先っぽまでものすごく暖かい、




そして、俺の体温も上昇中です。ボディタッチはほどほどにしていただきたい。ここ2人しかいないんで。




しかし、本当になんか安心感がある暖かさだな。やっぱり肉付きのいい人だから、体温が……、めちゃ失礼なこと思った。




「翔君はむしろ冷たいね……。私が暖かいことを考えても冷たいよ……」




「俺はいろいろと足りてませんからね。でも別に体調不良になってないならいいっすよ」




「あっためてあげるね。はぁ~」




いやいやいや。ちょっと待ってください。とは思っても止めない俺。思うだけで、抵抗しない。だって完全に役得だし。




「すりすり……」




そして、俺の手をこすり始める。あ、まずいそろそろ止めないと、何か反応しそう。




「……、やっぱり男の子の手だよね……。大きいし、ゴツゴツしてるもん」




触るのを止めて、俺の手を見て、そう言う。




「優希先輩の手は女の子の手って感じがしますよね。細くて白くて、しっとりしてて」




「え、そ、そんな、恥ずかしいよ……」




さっきまでやってたことの方がよほど恥ずかしいのですが。主に俺が。




この先輩は自分からやることに対しては無頓着なのに、人からやられることには、めちゃくちゃガードが固いというか。いわゆる勘違いさせる系だな。俺も何度だまされそうになったことか。




「今日は書類の処理は難しいですね。ちょうど良いですから買出しに行きましょうか。結構なくなってるものも多いですし」




「うん、お出かけしよっか」




俺は優希先輩と2人で、生徒会の備品の購入に行くことにした。この作業なら気軽にできる。




「そ、それにしても、今日も寒いね」




「そっすかね?」




確かに最近は時期としては寒いことも多いが、今日は比較的暖かいくらいだ。




やはり肉付きのいい人は体温調整が……、2回目失礼いたしました。




「うん、1回暖かくなったから、羽織るもの仕舞っちゃったし、また出してもらうのも悪いから肌寒くても我慢しなくちゃいけないよね」




「それはそうですね」




最近の体調不良者が多いのはそれもある。寒いのに、それを防ぐものが既に無いから気温が落ちたときに体調を崩すのである。




「大丈夫ですか?」




優希先輩はちょっと震えている。体温が高いとはいえ、ちょっと変な気がするな。




「うん、大丈夫だよ……、あっ」




優希先輩が、特に何もないところで躓く。




「おっと」




優希先輩は少しゆっくり歩いていて、俺がちょっと前を歩いていたので、前に躓いた優希先輩を支えることができた。




「大丈夫……で……」




俺はそこで言葉が止まった。




俺は優希先輩を抱きとめるように止めたのだが、そのまま優希先輩は俺にもたれかかったまま動かないのである。




さて、これの何が問題かというと、柔らかい、とにかく柔らかい。




優希先輩の自己主張の強い部分はもちろんなのだが、それ以外の部分も全てが柔らかい。




肩辺りに触れている顔、胸の辺りにある手、足に当たっている太もも、あまりにもこれは柔らかい。




そして、問題は触覚だけではない。




体温が高いだけあって、ポカポカしてるし、優希先輩からは、いつも甘い香りが不思議と香っているのだが、その中心とも言える髪がちょうど俺の鼻の前にある。身長がかなり近い優希先輩の髪がこれだけ眼前にあるのは、もちろん始めてである。


脳みそが何も考えられず、蕩けそうである。




ここは一旦落ち着こう、思考が安定しない。深呼吸、深呼吸。




って、こんなところで深呼吸したら、余計に香りを吸ってしまった。まずい、より思考力がダウンする! 




れれ、冷静になれ。というか、何で優希先輩は離れない? 




「すんすん」




すん? 何の音だ?




「ふふ……、翔君の香りだ~」




いや、何でさらに押し付けてくるんですか? そして、何で俺の匂い嗅いでるんですか? いや、俺も優希先輩の香り嗅いでたから、人のこと言えませんが。




いったい、どうしたんだ。熱に浮かされてるみたい……、熱?




「優希先輩、失礼します……」




俺は優希先輩の額に手をあてる。




「……優希先輩、風邪引いてますね……」




「え、な、なんのことかな~?」




急にとぼけはじめる。




「おかしいと思ったんですよ、いくらなんでも今日は暖かいくらいなんですから、寒いっていうのは違和感ありました」




「うう~、ごめんなさい」




と思ったら、あっさり観念した。周りの人たちの服装は確かに、どちらかといえば涼しげな格好であり、ごまかせないと思ったのだろう。




「真理亜にあんなことを言っておいて、なんで優希先輩が無理してるんすか?」




「だって……、私がいなかったら、今日翔君は1人ぼっちになっちゃうでしょ?」




「別に1人でも仕事はできますよ。作業は遅れますけど、分からないことは特にないですから」




優希先輩の指導のもと、会長職はもちろん、書記、会計の仕事もある程度は覚えている。




副会長である真理亜も同じように覚えてくれているので、そこまで負担でもない。真理亜はなんだかんだで優秀である。




「そういうことじゃなくて……、1人は寂しいでしょ?」




「別に1人暮らしですからそこまでは思いませんけど?」




「う~、でも一緒にいたいんだよ」




これは完全に体調不良だな。風邪とか引くと、寂しくなって、人恋しくなると孝之から聞いたことがある。




「とにかく、送りますから家に帰ってください。今日は備品を買って、細かい資料の整理だけですから、俺は1人で頑張りますから」




「でも」




「でももストライキもないんです! 体調が悪い人の仕事は、1日でも早く体調を良くする事ですから。ちゃんと優先順位を考えて行動してください!」




優希先輩が強情なので、ついうっかり説教してしまった。いかん、先輩なのに。




「うん、ごめんなさい……」




俯いて反省状態になってしまった。




「歩けますか? それとも、家の人を呼びますか?」




「ううん、歩けるよ。でも……」




「でも?」




「倒れるといけないから、手を握っててもいいいかな?」




「……はい、どうぞ」




基本的にいつも大らかではあるが、どこか自信にあふれている勇気先輩にしては、珍しく弱弱しい表情と言動に、恥ずかしかったが断ることができなかった。




優希先輩の左手を俺は右手で握ってゆっくりと家の前までエスコートした。




かなりゆっくりエスコートしたので、生徒会の作業は完全下校時刻ギリギリになってしまったが、まぁそんなことは気にならないくらいいい時間だった。会話も特に無かったけど、先輩に頼ってもらえることに幸せを感じていた

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