第24話 特売へ!
「あ、翔君、いらっしゃい」
俺が生徒会室に来ると、既に優希先輩がいた。
「早いですね」
「うん、早いうちに荷物を片付けておかないといけないからね」
今日は生徒会室を大掃除する日。別に行事ではない。俺が考えた。
やはり一月に1回くらいは、1度大きな掃除をして、いるものといらないものをはっきり分けること。そして、普段は掃除がしにくい場所をあえて掃除をすることで、気分を一身するために俺が考案した。
「じゃあ1回机を外に出すから、そっちを持ってくれないかな?」
「はい、分かりました」
机を廊下に出すために、2人で持ち上げようとする。
「ちょっと! 何してるの!」
だが、そのタイミングで真理亜に邪魔をされる。
「何って、掃除だろうが」
「お姉さまにそんなに重いものを持たせて何を考えてるの! お姉さま代わります!」
そして真理亜は優希先輩の持っていた机を引き受ける。
「う、うんじゃあお願いね」
優希先輩はそう言って、別の作業に戻る。
「全く何を考えてるのかしら。か弱い女性のお姉さまに、重労働をさせるなんて、それでも会長なの?」
この机そこそこ重いのだが、よく持ちながらしゃべれるな。意外と力持ちなのか。
「そう言う真理亜だって、女の子だろ?」
「え?」
ずっとしゃべっていた真理亜が急に黙り込む。
「……私のことをそう言う目で見てたの……?」
う~ん、これはどういう意味だ?
「いや、少なくとも真理亜は女子だろ? か弱いとか、そう言うことはなしにしてもさ」
「胸もあるしな」
「そうそう、胸もある……、って孝之このやろう!」
後ろからの告げ口で、つい釣られてセクハラしてしまった。
「……やっぱり男の人って獣ね……」
「違う! 今のは孝之が悪い! 俺はそういう意味で言ったんじゃない!」
「じゃあどういう意味? 私のどこか女らしい?」
真理亜はどこからどう見ても女性である。
だが、そのせいで逆にその質問が困る。
たとえば、ちょっと男っぽい女性に「私のどこか女の子っぽい?」って聞かれれば、可愛いものが好きだとか、髪が綺麗だとか、いろいろ言える。
だから、逆に難しい、特に真理亜ほど気難しいとなると、余計難しい。
「……スカートはいてるから?」
少し考えた結果、おそらく最低に近い結果を言ってしまった。
「それだけ!? だったら、堀田君もスカート履けば、女の子じゃない!」
幸助のスカート?
……ああ、可愛い、あいつスカートははかないからな。いや、当たり前なのだが。
「まぁとにかくさ、真理亜は女子だよ。可愛いもの好きだし、いろいろ気を使ってくれるところも女性らしいしさ」
「……ふーん、そ」
真理亜はそっけなく返事をしてきたが、特に怒っている様子は無かったので、とりあえず問題は無かったようだ。
真理亜がそのあと、ちょっとご機嫌だったのと、すぐに体育会系の孝之が参加してくれたので、あっという間に片付けが終わった。そして、いつもどおり作業を終えて、帰宅した。
「あ、翔君~」
一旦家に帰ってから、外に出ると偶然優希先輩に出会った、
「あ、こんばんわ」
「翔君は何してるの?」
「買い物ですよ。今日は安く買えるみたいなんで」
この町には、そこそこスーパーはあるが、俺が使用するのは決まっている。
頻繁にセールを行う、スーパーワルサンでしか買わない。
元々他のスーパーよりやや安く、不定期だが、大バーゲンを行ってくれるからだ。
「いいな~。翔君は将来いいお嫁さんになれるだろうね~」
「俺は男ですから」
これ以上男か女かややこしいキャラが増えたら、大困惑だ。
「てへ、ごめんごめん冗談だよ」
てへぺろと舌を出す。それをやられたら1万円くらいまでなら取られても許しそうである。
「お詫びに私もついてってあげるよ。そういうセールってお1人様1個とかあるんでしょ?」
「え、優希先輩も外に出られてるんでしたら、何か用事があるんじゃないですか?」
「ううん、私は用事が終わったところだから」
「ありがたいんですけど……、大丈夫ですか?」
「あー、馬鹿にしてるでしょ。私も買い物くらいするから大丈夫だよ」
「そういうことじゃないんですけど……」
「もー、遠慮しなくていいって、先輩なんだから、後輩に協力するのは当然でしょ」
「分かりました、実際助かりますし」
こうなると案外強情な優希先輩は折れない。
「とりあえず、頑張ってくださいね」
「?」
優希先輩が頭をかしげる。
『ただいまからタイムセールを行います! お1人様お一つでお願いします! まずは野菜コーナー、もやし1袋1円です!』
スーパーに到着するやいなや、タイムセールを狙った主婦で店はごったかえしていた。
「え、え、何これ?」
優希先輩は始めてみる光景に戸惑う。
「取れなくてもいいですけど、怪我はしないようにしてくださいね。俺も全力ですから」
もやしを取りに、主婦の波に突撃する。
店員がもやしの前に陣取り、もやしを投げる。
投げても大丈夫なものなら、ここでは後ろの人でも取れるように、ほどほどに店員が投げてくれる。
俺はその癖を知っているが、それは他の主婦も同じ。だが、俺には、男であること、身長が172センチある利点がある。いい位置を陣取るのには有利だった。
バシッ!
あっさりともやしを1個ゲットした。真ん中に1円と書いたシールが張ってある、これがタイムセール品の証だ。
籠を持ったままセールすると事故につながるので、ゲットした商品からシールを取って、手元に置いておくことで、籠に入れたセール品をその辺りにおいておいても、取られる心配が無いというわけだ。
『もやしは以上です! 次のタイムセールまで10分お待ちください!』
「えーと、優希先輩……、いた」
優希先輩は、野菜売り場から少し離れた生鮮食品売り場で座っていた。
「大丈夫ですか……」
「う、うん、ちょっと迫力がありすぎてびっくりしちゃった。すごいねこれ」
「あまり無理しないでくださいね。ここでは大人も子供もありませんから」
「わ、私もついてきたからには、1回くらいは結果を出すからね」
顔色がやや悪いながらも、その強く発言ができるところはさすがではある。
『秋刀魚38円!』
『にんにく17円!』
『なす3本入り53円!』
『葱3本、1束42円!』
激闘が続くも、全てをゲットすることに成功した。
「うー、ごめんね、翔君」
優希先輩も全力で頑張ってくれてはいたが、いくら優秀な優希先輩でも、さすがに初めてでは対応できなかったようだ。
「いえいえ、俺は失敗してませんし、もし1個でも優希先輩が取れれば、それだけで得ですから、頑張ってください」
『次は豆腐です! 1丁17円!』
次のセールが始まった。豆腐は投げられないので、じっくりと前に行かなければならない。
こういうところでも俺は有利である。力ずくで前に行きやすいし、細身なので、間を抜けやすい。
確実に前進しつつ後ろを見ると優希先輩は大分後ろの方で手を伸ばしていた。さすがに厳しいだろう。
そして、ついに豆腐をゲットした。
「あっ!?」
だが、掴み方が甘かった。俺の腰に落とす前に、誰かに取られてしまった。
「しまった、取れて油断した……」
このやり方はルール違反ではない、というか、誰が犯人かわかんないし。
俺は豆腐と取り損ねてしまった。
「翔君、翔君」
人だかりがなくなると、勇気先輩が俺に声をかけてきた。
「うーん、間違いなく取ったのに、取られてしまいました」
「ほらっ、豆腐取れたよ」
「本当ですか!」
優希先輩の手元には、17円のシールが張ってある豆腐があった。
「さすがですね、俺初日は何も取れませんでしたよ」
初めて来たのは、母につれてこられたとき。ちょっと体格が小さかったとは言え、収穫は0だった。
「えっへん、私は先輩だから、これくらい当然です」
「ん?」
優希先輩の持っている豆腐のシールは、かなり右下についていた。
俺は自分のとった豆腐は一応視認したのだが、ややシールが右下についているものだった。
優希先輩はかなり後ろのほうにいたから、取れるとしたら……そういうことか?
いや、確証ないし、俺もずっと優希先輩を見てたわけじゃないからな。仮にそうでも、俺は損してないし、当然といいながら嬉しそうな優希先輩の笑顔に水を差すこともないだろうと思った。
結局、優希先輩は、セール品20個のうち、4個で、合計23品(豆腐は俺が取れていないので-1個)の商品を手に入れることができた。
優希先輩に感謝して、俺は家に帰宅した。
疲れたけど、優希先輩と2人で何かするのはやっぱり楽しくて仕方が無い。
2人で買い物とか、まるで…………、いや考えるのはよそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます