第23話 デートアフター
「それで、どうだったんだ?」
週明けの月曜日。登校するやいなや孝之が絡んできた。
「な、何のことだ?」
「とぼけんなよ。九十九パイセンとデートだっただろうが。それでどうだったんだ? 手でもつないだか?」
「そんなことできねぇよ」
「じゃあ腕を組んでもらったりとか?」
「そんなこともない」
「あの豊満なパイセンのパイセンが当たったり、ふにゃんとなったり、ふにょんとなったり、ふわっとなったりしてないのか?」
「なんで胸に関してだけ擬音が多いんだよ。何も無いって」
いい感じの私服に見蕩れて、目の保養にはなったが。
「それじゃ何か。何の進展もなかったのか?」
「ないな……」
ないというよりも、普段の生徒会活動と比べても、スキンシップについては少ないくらいだ。
「まったくへたれが」
「いいんだよ別に。一緒に過ごせればそれで」
「そんなこと言ってると、他の誰かに取られちまうぞ」
「ま、まぁ優希先輩は美人だから、よりどりみどりだろう」
「あの大きな胸部が、知らない誰かの頭の上にのったり、知らない誰かの胸でつぶれたり、知らない誰かの手であの高脂肪分を揉まれたり、知らない誰かの×××を胸で×××した「おい、そろそろやめろ」
一応周りに気を使っているのか声が小さいが、それを加味しても、許されないことを言い出したので止める。最後のほうは何言ってるかヨクキコエナカッタナー。
「優希先輩をそんないやらしい目線で見るのはやめろよ」
「全く、まだそんなこと言ってるのか。九十九パイセンの前で、パイオツに興味ありますとか普通に言ってんだから今更だろ」
「……、でもな、堂々と見たりするのは失礼だろ」
「どうせ見てるのはばれてんだから、堂々としてりゃいいんだ。ああいう人は自分のオーパーツへの視線には敏感なもんだ」
どうでもいいが、孝之の胸の呼び方の語彙力すげえな。
グ~。
「……」
生徒会活動中。皆が真面目に仕事をしていたので、その音が大きく響いた。
「桂川君。皆が集中してるときに、そんな腑抜けた音を出すのは会長としてどうなのかしら」
「真理亜、何で犯人を俺だと決め付ける?」
「だって空腹=桂川君でしょ? お金ないんだから」
「ちょっと間違っているな。俺は確かに金は無いし、食べるものも少ないが、俺が飢えに苦しんでいるところを見たことはあるか?」
「……、そういえば、お腹すいたってあまり言わないわね」
「ああ、俺は小さい頃から貧乏だったからな。ちょっとお腹が空いてるくらいがデフォルトだ。だから、2日くらいなら絶食しても腹はならん」
「……なんかごめんなさい」
「副会長先輩は失礼ですよ。口も悪いですし、お腹の音を聞き間違えるなんで耳も悪いですね」
「あなたの方がよっぽど口が悪いじゃない!」
「さっきの音はでも間違いなく聞こえてましたよね。僕の横の森先輩なら、僕が気づきますから……、まさか、元会長先輩が犯人ですか?」
幸助が軽く手をあごにあてて、考えた後に、優希先輩を見る。
「お姉さまのお腹の音だったんですか……、確かに甘美な音でしたし、とても可愛らしくて、なんでもできて完璧なのに、そこに見せる隙が更なるお姉さまの魅力として……」
「同じお腹の音に対する表現とは思えないな……。だが、副会長。残念だが、九十九パイセンでもない」
暴走し始めた真理亜を孝之が止める。
「どうしてあなたに分かるのよ」
「さっきの音はかなり大きいお腹の音だった。あれだけの音が鳴れば、振動でわずかに胸が揺れるはずだが、全く微動だにしていなかった」
「……、信じてくれるのは嬉しいんだけど、その理由はどうかなって思うよ?」
要はわずかなゆれを理解できるほど普段からガン見しているということだ。一応自分の身の潔白を言ってくれているので、あまり優希先輩も強く言わないが、完全に苦笑いである。
「まぁそもそも犯人は僕なんですけどね。副会長先輩には、僕のお腹の音は甘美に聞こえるんですか?」
「はやく言いなさいよ!」
「お腹空いたので、お菓子タイムにしますね」
「なんであなたが仕切るのよ!」
「まあまあ、今日ははかどったから休憩にしよう?」
そして優希先輩の一言で休憩タイムになる。
「うん、今日も美味しいね」
「和菓子は太りにくいから、あまり気を使わずに食べれるわ」
「あまりくどくないのがいいですよね」
優希先輩、真理亜、幸助が3人でお菓子に舌鼓をうつ。お菓子タイムになると、たまにあの3人で話していることがある。幸助の違和感が0すぎる。
「しかし、このお菓子、結構頻繁にただで食ってるけど、本当は高いんだよな。そう考えると、贅沢な休憩だな」
「俺はこれで生きつないできたが、よく考えると、これを売ったら、そこそこの飯が食えたかもな」
「とは言っても、これを食うとそんな気にはならないけどな。美味いんだよ」
「仮に美味くなくても、幸助に悪くてできんわ。……ん?」
口に含んだ抹茶餡の饅頭にわずかに違和感があった。
「どうしました? 翔先輩」
幸助がその様子に気づいて俺に近寄ってくる。
「いや……、味がいつもと違うような」
「「「え! 味とか分かってたの!?」」」
孝之、真理亜、優希先輩から、俺の発言に対して突っ込みが入る。なんとまぁ失礼な。というか、優希先輩にまで言われると悲しい。確かに味への表現方法少ないけど。
「どう違いますか?」
「ちょっとだがいつもより甘い」
「よく分かりましたね。それは僕が作らせてもらったものです」
「え、これ堀田君が作ったの?」
「はい、店のお手伝いをしてるときに、お父さんが作らせてくれました。商品にはならないから、生徒会に持っていっていいって言われました。これはいつもより作ってからの期間が短いのでその分は美味しいかもしれませんね」
「なるほど、どっちかっていうと、女子受けしそうだよな。甘みが強い」
「そうね、対したものだと思うけどね。私は結構好きよ」
「副会長先輩は、多分そういうと思ってました」
「……なんか含みのある言い方ね……」
「今回に関しては気のせいです」
「別に俺も文句を言ったわけじゃないがな。後味が分かるというわけでもなく、俺にとって幸助のくれる抹茶のお菓子は主食に近いからな。皆だって、食べなれてるものが、少し味が変わったら気づくだろ」
「そんなもんかね。でも冷静に考えるとこれを頻繁に食ってるのは、贅沢すぎだろ、しかも翔に至っては毎日だろ」」
「え……、桂川君、毎日堀田君にお菓子をもらってるの? 時々じゃなくて?」
生徒会において、幸助がお菓子を持ってくるのは毎回ではない。だが、俺にお菓子をくれるのはほぼ毎日に近い。俺が1年生で幸助が中学3年生という状況でも、俺の家によく顔を出してくれた。通い幸助である。
「もっと堀田君に感謝すべきよ。いつも当たり前のように、パクパク食べて! ちゃんと味わっていただくべきだわ!」
「副会長先輩、僕が好きでやってることですから」
「それに幸助にとっちゃこれは主食に近い。俺達でいうところの米やパンみたいなもんだ。それに毎回感想を言うというのも変じゃないか」
「……言い過ぎたわ、ごめんなさい」
真理亜が急にしおらしくなって謝ってくる。真理亜はなんか知らんが、貧乏な話に進むと急に俺に同情的になる。
「試しに、他のお店の抹茶のスイーツとか食べてみる? そうしたら、比べられるかも?」
「いいですよ別に。多分幸助のほうが美味いとは思いますが、それは美味いかすごく美味いかの差でしかないですからね」
とはいっても、幸助には後輩なのに、迷惑をかけてばかりだ。どこかでねぎらう必要はあるかもな。
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