第13話 生徒会の関係
「よし、今日はこんなもんかな」
生徒会の活動の一環であるボランティア活動。全校生徒が参加するものとは別で、生徒会だけが行う簡易的なものである。
「ありがとうね。翔君」
「助かるよ、桂川ちゃん」
「お疲れさん、翔」
周りには生徒会だけでなく、町内でボランティアに参加している大人も何人かいる。
大体知り合いだから、気を使うことも無い。
「翔君は顔が広いね。挨拶が必要ないもん」
優希先輩いわく、普通はボランティア含め、生徒会が町内の人と活動する場合は、自己紹介をして、追々関係を深めていくのだが、俺は知り合いが多いので、その手間がなく、スムーズに活動ができるというわけだ。
「新聞配達や牛乳配達もしてましたし、ちょっとでも安くなるように、いろんな店に行きましたし、リサイクルショップとかバザーにも顔を出しますからね。元々父さんの知り合いって人も多いですし」
「交友関係の広さも、実力だと思うよ。だから、自信を持って良いからね」
優希先輩と真理亜は去年の生徒会に参加しているし、孝之、幸助は俺の買い物に付き合ってくれることもあったので、要は初対面がまったく居ないという状況。人との関係を広めるための活動という言う意味では、まったく意味が無いが、スムーズに町内との交流ができるのだから、問題は無いのだろう。
「翔君」
作業がひと段落ついて、休んでいると、1人の女性が俺に話しかけてきた。
「ああ、床屋のおばちゃん」
呼び方から分かるとおり、俺が小さい頃からずっと世話になっている床屋さんのおばちゃんである。
カット2000円なのだが、今でも子供料金の1400円でこっそりカットしてくれている。
話好きで、カットをしながら俺の近況をよく聞いてくる。
「意外と隅に置けないね。ずっと勉強とアルバイトだけしてると思ったのに、ちゃんとしてるじゃない」
「は?」
「こんな可愛らしい人を側につれてるのに、何をとぼけてるの?」
「そ、そんな……、可愛らしいなんて」
「副会長さん、どうみてもあの人は、九十九先輩を指してますけど?」
「…………、ぅ~」
真理亜は顔を真っ赤にして、そっぽを向く。ツンデレ、ヒステリック、そして、自意識過剰、どれだけ属性を増やすつもりだ。
「どうも、はじめまして。翔君の通う学校の3年生の九十九優希です」
ああ、床屋のおばちゃんとは初対面なのか。おばちゃんも、俺が来るってことでボランティアに来てくれたけど、普段この時間は仕事をしてるからな。顔は広いから、普通に皆と話してたけど。
「3年生? ああ、先輩なんだね。同級生か後輩に見えたよ」
「そ、そうですかね」
あ、優希先輩の口元が引きつってる。この人、自分がお姉さんとしてしっかりしてることに、プライドを持ってるから、子供っぽく見られるの大嫌いなんだよな。
後輩か……。スタイルは大人っぽいんだけど、顔がめちゃくちゃ童顔で、しゃべり方もおっとししてるから、制服を着てると、確かに見えなくも無い。私服だと逆に年上に見えるんだけどな。
「それにしても……」
床屋のおばちゃんが、俺と優希先輩を見比べる。何だ?
「翔君もいい子を捕まえたもんだね。これだけ美人なら、自慢になるんじゃないかい?」
「え!?」
「な、何言ってんの?」
「照れない照れない。この子がが翔君のこれだろ?」
そう言って、おばちゃんは小指を立てる、古い……、ってそこじゃなくて。
俺は周りを見渡す。
真理亜→魂が抜けている。目に光がない。
幸助→違うおじちゃんおばちゃんに可愛がられている。小さくて人なつっこいからな。実は年上キラーである。
優希先輩→あたふたして、言葉をなくしている。首を左右に振って動揺丸出しである。
孝之→ニヤニヤして見ている。ちなみに俺ではなく、動揺している優希先輩を見ている。助けろ。
「さてと、じゃあ皆に話してこなくっちゃね」
「優希先輩! 否定してください! 俺とは何でも無いって」
「え、でも……」
真っ赤になった困り顔で俺を見る。
いや、何でそんな顔で俺を見るんですか。まんざらでもないのかなって勘違いしちゃうから止めてください。
「床屋のおばちゃんは、この町内で一番顔が広くて、その上一番口が軽いんです。もしおばちゃんにこのことを話されたら、あっという間に町内中の噂にされます!」
「おば様! 落ち着いてください! 誤解です!」
おお、いつもより大きい声で優希先輩が言ってくれた。
「何だ違うのかい?」
「最初からそう言ってますよ。全く相変わらずゴシップ好きですね」
「いや、優希ちゃん、悪かったね。でも翔君はいい子だとは思うけど、どうだい?」
「おばちゃん!」
「はっはっは、冗談だよ。それじゃあね」
そう言って、おばちゃんは離れていった。
「全く、おばちゃんは」
「激しい人だね。びっくりしちゃった」
表情に落ち着きが戻り、笑顔で俺にそう言う。
「副会長先輩? 大丈夫ですか? なんか魂抜けてますけど?」
「はっ、何か悪夢を見てたみたいだわ?」
戻ってきた幸助が真理亜に声をかけ、真理亜も正気に戻る。
「パイセンもすぐに否定すればよかったじゃないですか。何で、ちょっと動揺してんですか?」
「そ、それはね……、すぐに、全然違いますって言っちゃったら、何か翔君に悪いじゃない? ねぇ翔君?」
おお、そこで俺に振りますか。
「まぁ、全面否定されたら、悲しいですね」
「悲しいの?」
「う……、まぁそうです」
「そ、そうなんだ……」
何だこの空気。妙に甘酸っぱい。
「悲しむどころじゃないわよ! 才色兼備で、家もお金持ちのお嬢様のお姉さまと付き合えるかどうかなんて、考えるのもおごかましいわ! 絵空事よ!」
「まぁ、住む世界が違うかもな。翔とパイセンじゃ」
真理亜と孝之にそういわれて、熱が冷める。
まぁ確かに、優希先輩はあくまでも憧れの人。恋人同士になれるなんて夢物語でも思いつかない。
孝之は俺のそのことを知っているけど、やっぱり難しいんじゃないかとよく言われている。
「もう、2人とも言いすぎだよ。それじゃ翔君がかわいそうだよ」
「ということは、元会長先輩的には、翔先輩にもチャンスがあるという見解ですか?」
「え、そ、そういうことじゃなくて! あまり私を崇めないでってこと。私は皆より1歳か2歳年上なだけの女の子だよ? 生徒会の仕事が片付かなくてサボったりもするし、ちょっとお腹がすいて早くお弁当を食べたりもするし、お嬢様って言っても、マナーとかダンスとか真理亜ちゃんと違って何にもわかんないし、それにそれに……」
「お姉さま! 大丈夫です! 私はそういう点も含めて、お姉さまを慕っています」
幸助の質問に、動揺して、どんどん自爆をしまくる優希先輩を、真理亜が止めた。
「とにかく! まだボランティアは終わってないんだから、余計なおしゃべりはしちゃ駄目! ちゃんと最後までしっかりやるの!」
「「「「はい!」」」」
優希先輩の激励で、再び作業に戻り、無事ボランティアは終わった。
「ねぇ、翔君」
「なんですか?」
その日の帰り道で、優希先輩に袖を引かれた。
「私って、翔君の後輩に見えるのかな?」
「急になんですか?」
「だって、あのおば様が、私のことを翔君の同級生か、後輩だって……」
「まさか、気にしてんですか?」
あんな適当な言葉を鵜呑みにしなくても。
「気にするよ。私3年生なのに。皆よりお姉さんなのに……」
「さっき自分で、周りより1歳上くらいだからそんなに特別扱いしないでって言ってたじゃないですか」
「それはそれ。これはこれなの。特別扱いはされたくないけど、子供扱いはされたくないんだよ~。私しっかりしてるつもりだったのに~。ちゃんと挨拶もしたのに」
頬を膨らませて、完全に不機嫌モードになっている。
真理亜ほど極端ではないが、女性というのは不機嫌な様子が分かりやすいな。
「おばちゃんは64歳ですからね。あの人から見れば、俺達が16歳か17歳か18歳かなんて些細な差なんでしょう。俺達から見たら、6歳も7歳も8歳も見た目じゃ分からないじゃないですか」
「それは……、そうかな?」
お、ちょっと不満顔から不安顔になったな。
「それに、俺は優希先輩のことを、頼れる先輩で、会長としても先輩ですごく信頼してますから」
「そ、そう? 後輩にそういわれるのは嬉しいな……」
「それに、先輩じゃなく、同級生か後輩っぽいって思われたのは、先輩が俺にあまり距離感なく接してくれているから、きっとそう見えたんです。俺は優希先輩が、後輩である俺にずっと親身になって助けてくれてることをとても嬉しく思ってます」
「うんうん、私は翔君とみんなの頼れるお姉さんだからね。これからも、どんどん頼ってくれて良いからね」
俺の言葉に、笑顔が戻って期限もよくなる。
もちろんおべっかを使ったつもりはない。勇気先輩が俺に気を使わずに接してくれていることは本当に嬉しい。
後1年もないけど、優希先輩とともに過ごせるこの時間を大事にしていきたいな……。やっぱり恋人になるのは、夢のまた夢だしな。今一緒にいれることが幸せなんだから。
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