第12話 会議は踊る
「さて、今日は会議をしよう!」
生徒会室にて、会長である俺の一声で、5人全員が真面目な表情で席につく。
「引継ぎもひと段落着いて、新しい学年にも皆慣れつつあるわ。そろそろ何をするか決めるのにもちょうどいいわね」
「僕はまだ1年生ですから、皆さんについていきます」
「何か分からなかったら何でも聞いてね」
「とりあえず、予算だろ」
会計である孝之から意見が出た。確かに予算決めはかなり重要なことだ。
孝之は、見た目の体育会系に反してという言い方は失礼かもしれないが、かなり勉強はでき、実力テストは20位くらいだ。ちなみに、理系科目がめちゃくちゃ得意で、文系科目が孝之が得意であったら、一気に一桁も狙えるレベルにはある。
「でも具体的にはどうするんだ? 予算って言ってもな」
予算決めは確かに生徒会が会計を中心に行う権限はあるが、会計の主な仕事は、直接的にお金を使うことはしない。
書類上のお金の動きを監査して、生徒と教師のパイプ役になるのが主な仕事で、どちらかというと管理仕事になる。
部活動の予算も、大体学校が決めたものを、生徒からの要望を通して調整するくらいで、権限は大きくない。
漫画やアニメみたいに、学校のお金を直接的に動かすようなことはできないのだ。つ
「ああ、分かってる。会計は基本的にオファーがあってからの仕事で、後は完全に事務仕事ってことはな。
だが、1つ、この時期は新しい案をいろいろ出して、それに予算をかけていいか審査することができるはずだ」
「うん、確かにそれは森君のいうとおりだね」
孝之の発言に優希先輩が同調する。
学校には、生徒や親からいろいろな要望が出され、それを生徒会が纏めており、その中で実際に行うことが有益だと思われれば、生徒会の監査を経て予算に組み込んで実行することができる。
生徒会で有益だと思われれば、後は学年主任の許可を得るだけ。あまりたくさんは通せないが、毎年何個かは学校のルールや、施設の仕組みが変わったりする。それが増えたり減ったりして、毎年学校は変わっていくのである。
変化のない組織は悪くなっていく。変化をすることで、失敗したり悪い方向に向かうことももちろんあるが、挑戦すること自体は意義のあることなのだ。
「去年は図書室の土曜日、日曜日の開放が新しく決められたんですよね」
「ええ、これは要望が多かったからね。勉強に使ったり、読書をするのに使う人が多かったわ。ちょっと予算が嵩んだけど、生徒が自主的に管理することで、何とか案が通ったわね」
「なんか面白い要望でもあったのか? 孝之はずいぶん張り切ってるけど」
「いや? ただ制服についての要望があったから、言ってみただけだが?」
「制服?」
「ちょっとこれを見てくれ」
孝之が差し出した書類に全員が目を向ける。
「学ラン、セーラー服から、ブレザーへの変更を望む声が多くなっているので、示唆して欲しいか」
「これは前からあったけど、特に気にしてなかったわね。生徒会の権限じゃないし。でもどうして?」
真理亜が意見を言う。優希先輩も同じような意見で、首をかしげている。
「学ランやセーラー服は、学生って感じでいいとは思うんですけど、重ね着がしにくくて温度調整がしにくいですし、学校独自のカラーを出しにくいともよく言われるんです。最近は確かに、ブレザーが主流になりつつありますからね」
「まぁそれはそうだけど。うちの学校に関して言うなら、独自のカラーを出さなくてもいいんじゃない?」
確かに星野高校は名門なので、わざわざ宣伝をしなくても生徒は来る。制服を変えるのも手間であり、予算も大きくかかることは間違いない。
「まぁ俺はこのままでいいと思ってます。セーラー服のほうが、体のラインがよく分かりますし、胸の大きい人は、時々制服がスカートからはみ出てシャツやお腹が見えたりしますしね」
「台無しだよ」
「台無しだわ」
「台無しですね」
「う~ん、じゃあ違う話しよっか?」
真面目な話してると思ったら、いつも通りになりやがった。
ただ、そのような思考を持っている人間がいるから、セーラー服が廃れていっているのではないだろうか。
「はい、僕はやっぱり生徒のためになることをやるべきだと思います!」
ちょっと全員のテンションが下がったところで、幸助が挙手して意見を言う。
「うん、いい意見ね。生徒会の基本的な行動だから」
「幸助、具体的に何かあるのか?」
「この学校は十分施設はそろってると思うんですけど、ちょっと購買は物足りないと思うんです」
「そうなのか?」
俺は学食にはたまに行くが、購買に行くことはほとんど無い。
「別に気になったことはねぇけど? 安いし」
「私も無いかな~。2年間通ってて不便を感じたことは無いけど」
「強いて言うなら、混雑が激しいことかしら? それは、レジを多くしたり、対応する人を増やしたり、昼以外も開放することで、多少は改善できてると思うけど、何かより良くなる案があるのかしら?」
「違います。甘味が足りないんです!」
「幸助の私情じゃないか」
幸助はかなりの甘党で、ランチと称して、和菓子を食べていることも多い。それであの細身なのだから、世の中の女子から、謎として言われている。女子からの相談を受けることは、中学生自体から多かったが、生徒会に入ったことで、知名度があがり、さらに増えたらしい。
「そんなことないですよ。甘いものがあれば脳も活性化しますし、和菓子は太りにくいんですよ。糖分も低いですし、食事を減らせば体脂肪にもなりにくんですから! ダイエット中でも甘いものが食べれますよ」
「ちょっとその話を詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」
「副会長先輩は、そのままでいいと思いますよ」
「男の子なのに可愛い堀田君には分からないのよ!」
「か……可愛くないです」
「ご、ごめんなさい」
真理亜が口を滑らせてしまい、幸助が落ち込む。ただし、落ち込んでいる姿は可愛い。
「真理亜、気持ちは分かるが、個人的な話は後にしよう」
5人で会議中に、2人だけで話されると、会議が進まなくなる。
「なるほどね。ダイエットを気にしてる女の子が、甘いものが食べられるということで、ストレスにならないというのは、確かに悪くないとは思うわ」
「というわけで、うちの堀田甘味所の商品を購買におきましょう!」
「やっぱり私情じゃないか!」
案そのものは悪くなかったので、一応構想に入りました。
「さて、他には……」
「新しいことに目を向けるのも、大事だけど、ちゃんと恒例行事や、古い頃を見直すのも大事よ」
今度は真理亜からの意見だ。優希先輩を除くと、唯一の経験者ということで、期待が持てる。
「恒例行事って何があったかな?」
「5月の頭に、新入生歓迎会。ゴールデンウィーク空けに、全校生徒のボランティア清掃。その後、体力テストで、定期試験、6月は2年生の修学旅行、その後、3年生中心の大学見学、7月は体育祭があって、期末テスト、その後に夏休み中の夏期講習ね。9月からはまた違う生徒会が仕事をするけど、その引継ぎの関係もあるから、文化祭についても多少関わることになるかしら?」
「さすが、お姉さま! 完璧ですね」
「これでもちゃんと3年間学校に通ってたからね。知ってて当然」
「当たり前のことのような気がしますけどね。僕は1年生なので、恒例行事についてはまた教えてください」
真理亜の賞賛と、幸助のちょっぴり毒を受けながら、優希先輩が胸をはる。
「いいな、九十九パイセンを調子に乗せればああやって胸を張ってくれるんだな」
「小さい声で俺に耳打ちするな」
孝之が優希先輩の胸の話をしてくるたびに、しばらく優希先輩の胸を意識して見てしまうから困る。だって、孝之ほどじゃないにしても、俺だって大きいおっぱいは好きだからさ。しかも、憧れの人のだし。
「それよりも、桂川君も会長なんだから、お姉さまくらい知識がないと駄目よ。さっき上げたようなことは、生徒会がちゃんと主導になって、出来て当たり前のことなんだからね」
「ああ、それは申し訳ない」
「本来会長職のあなたは、私よりも知ってなくちゃいけないくらいなんだから、しっかりしてよ。できて当たり前のことができないことは、新しいことに失敗するよりも、周りをがっかりさせるんだから」
「分かった。俺は去年ずっと勉強とアルバイトばかりで、学校生活については、一生徒より知識が低いとは思う。だから、また人一倍頑張らないといけないんだよな。悪かったな。心配かけて」
「し、心配なんかしてないんだからね! 桂川君が失敗することは別にいいけど、恒例行事を失敗したら、皆に迷惑がかかるからそれが嫌なだけだから!」
「ふふ、真理亜ちゃんは生徒思いだね」
「ただのツンデレだろ」
「ツリ目とか、金髪ツインテールとか、見た目もツンデレテンプレですからね」
「ツンデレじゃないわよ!」
「じゃあ何ですか?」
「何でもないわよ!」
「まぁまぁ、怒らないで。皆もあんまり真理亜ちゃんをいじめないでね」
「はい」
「分かりました」
カオスな展開が、優希先輩の一言で落ち着く。さすがカリスマである。
「じゃあ今日の会議は、恒例行事が去年までどんな感じで行われていたのかを再確認して、それで問題が起こってないのかをちゃんとチェックすることにしようか」
「「「「異議なし!」」」」
というわけで、本日の生徒会の会議はつつがなく終わった。
皆なんらかの関係でつながりがあるから、気を使わずに話し合えるので、会議が無言にならなくて、とても良いとは思う。
何も意見が出ないよりは、孝之や幸助みたいな意見でも、議論ができるほうが、やっぱりいいものだ。
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