第11話 闇鍋だよ。全員集合。
「お~い、真理亜。準備ができたぞ!」
ずっと満足げな真理亜を動かすのは悪いかとも思ったが、準備が整ったので声をかける。
「真理亜ちゃん?」
だが反応がないので、優希先輩も声をかける。顔は見えないが、目線が1つの方向を向いたままうごかない。寝てんのかな?
「大丈夫かしら? 真理亜ちゃん?」
優希先輩が立ち上がって、真理亜の側まで行き、肩を揺らす。
「はっ、お、お姉さま……」
「どうしたの?」
「あ、あれをみてください」
「あれ? 雑誌かな?」
!? まずい、忘れてた。あのぬいぐるみの裏には……。
「お、お姉さま! うかつに触っちゃ駄目です!」
「どうして?」
「だって、男の子の部屋の、普段見えないところに、雑誌が置いてあるんですから……きっと……。エッ……な……」
「!? ……ドキドキ……」
優希先輩が頬を赤らめる。まずい、あれを見られたら……。
「へぇ~、そんなところに隠してたのか。何度も部屋に来たのに、見つからないと思ってたんだ」
「僕も翔先輩の趣味は興味がありますね~」
まずい。孝之と幸助まで悪乗りしてきた。
「真理亜! 止めてくれ。人の秘密を見ないでくれ!」
「そ、そんなこと言われても……、もう気づいちゃったから……」
真理亜は、皆がそっちを見ている状態でも、全く目を逸らさない。くそ、あのむっつりが。
「さっと取り出しちゃいます!」
そんな全員がにらみ合いの状態で、幸助が真理亜の横から本を取り出してしまう。
「ああ! 幸助止めてくれ!」
「さて、翔先輩の趣味は!」
「ああっ。もう、私は悪くないからね! 別に見たかったわけでもないんだからね!」
「ちょっと、ドキドキ。見てみたい気も……」
「『はじめての簡単、女子ご飯!』」
うう見られた……、恥ずかしい、普段俺の家で食べてるものがばれるなんて……。
「な、なんだ、お料理の本じゃない……」
「あはは……、びっくりさせないでよ」
「最近料理の腕あげてたもんな。やっぱり本があったか」
何か孝之と他の2人のリアクションが違う気がするが、そんなことよりも恥ずかしい。女子の作るご飯をレシピを見て作ってたのがばれて。
「『アスパラとツナの和風パスタ』、『クリーミージンジャーポーク』、『海老とブロッコリーのトマトペンネ』、どれも美味しそうですね。この3つはチェックが入ってますから、最近作ったんですか?」
「皆、俺の秘密にしてた食事をばらすなんて、ひどいじゃないか! 俺の見た目でこんな女子会で食べてそうな料理なんて合わないだろうけど、安いし、お腹いっぱいになるし!」
女子のご飯というのは、うまいことお腹を満たせるようになっていて、安いのが魅力なのだ。ちなみのこの雑誌は、近所のママさんからもらったのでただである。
「な、何も言ってないでしょ」
「う、うん、落ち着いて、いつもの翔君じゃないよ」
「今度作ってください!」
「とにかく、人の部屋を詮索するのは止めてください!」
あまりの動揺に、真理亜みたいなヒスを起こしてしまった。反省。
「お料理の本だけじゃなくて、掃除のコツ、編み物の本に、節約の本、家庭的だね」
「どれもまだまだですよ。時間を確保するのが難しくて」
「でも、僕に教えてくれる程度にはできますよ」
確かに幸助には教えている。こいつにはいろいろ世話になってるから、返さないといけない。こいつ基本的には全く恩着せがましくないから、恩を返すのも大変である。
「本当? 私にも教えて欲しいな」
「さすがに女の人に教えるほどはできませんよ」
「えー、堀田君には教えられても、私には駄目なの?」
また距離感をつめてくる。さっきの家に入るまでの感じはなんだったんだ。
「ま、またお姉さまを取られちゃう……、でも私は料理も裁縫もできないし……」
「落ち込むな副会長。翔のスキルは皆努力で得たスキルだ。誰でもやってやれないことは無い」
ツンデリックこと真理亜が珍しく落ち込んでしまったので、早めに孝之がフォローに入る。
真理亜みたいなタイプは打たれ弱いので、早めのフォローはいい動きである。
「と、いうわけで、お姉さまに教えるときは、私も参加するからね」
「うんうん、一緒に教えてもらおう♪」
「俺まだOKしてないんですけど」
「もちろん食事とお菓子くらいは教えてくれる以上対価として渡すわ」
「そうですね。時間ができるようなら、またお教えします」
だが、条件が整えば別である。
「皆さん、とりあえずお茶をどうぞ」
そんなこんなしているうちに、幸助がお茶を入れてくれた。
「ああ、ありがとな。ふぅ、いい味」
俺はお茶を頂いて落ち着く。
「うん、幸助のお茶はいいな。うまい」
孝之もお茶を頂いて落ち着く。
「ズズ……」
優希先輩もお茶を頂いて落ち着く。
「う……にがぁい……」
真理亜はお茶を飲んで舌を出す。苦いお茶は苦手なようだ。
「あ、すいません。苦いのは苦手なお子様舌でしたか?」
「そ、そんなこと無いわ。飲めるに決まってるじゃない……。ずず……にがい……」
涙目で頑張って飲み続ける真理亜。お茶を幸助が出し続ける限り、意地を張っていると飲み続ける羽目になるぞ。でも、付き合いの多そうな真理亜なら、お茶くらい飲めたほうがいいから、逆にいい訓練になるかな。
「って、皆でお茶を飲んでほっこりしてどうするの! お茶会じゃないでしょ!」
「僕は別にお茶会でも構いませんよ」
「でもせっかく材料を持ってきたわけだしな。まぁ、全部翔にやってもいいんだけど」
「俺が言い出したことだし、料理だけもらうなんて良くないから、やっぱりやろう」
「うんうん、じゃあみんなの材料を見せてね」
「はいお姉さま! 私はこれです!」
真理亜が材料を見せる。
牛肉、鶏肉、豚肉である。
「肉だな……、しかもいい肉だ」
「あら、分かるの? でもそこまですごくないわよ。鶏肉は1キロ8000円くらいの地鶏で、牛は飛騨牛で、キロ1万円くらい、豚はイベリコ豚でキロ9000円くらいかしら、全部500グラムずつ持ってきたから結構重かったわ」
「これを普通に調理して食べたいな……」
「ああ、これは絶対に手に入らないわけじゃないが、ちょっと頻繁には食べれないという絶妙なラインだよな」
見ただけで美味しさが伝わる。まさに高級品である。これがこの後闇鍋の餌食になるかと思うと、悲しくなる。
「じゃあ次は俺だな。俺は野菜とうどんだ」
「美味しく頂く気満々だな。鍋としてもめちゃくちゃ無難じゃないか」
「じゃあ次は私。はい、チーズとポテトチップスとポップコーンだよ」
「優希先輩絶妙なチョイス!」
「さすがお姉さま! チーズがマイルドにしてくれて闇鍋でも大丈夫!」
「でも、ここまでなら普通に食べれそうだね」
優希先輩の言うとおり、ここまでの食材なら、普通に鍋として美味しくいただけそうな気がする。
「最後は僕ですね。はい、いちご大福と、抹茶の饅頭と、あんこのおはぎです!」
「やってくれたな幸助。一気に闇鍋っぽくなったぞ!」
「饅頭が適度に解けて、周りの食材と混ざって、餡が解けていい気に甘くなるな……」
俺はあまりいいものが無かったので、とりあえずコッペパンを入れておいた。
この闇鍋の結果は……、言うまでもございません。とりあえずダイジェストで。
「あ、これは副会長先輩のお肉ですね。美味しい」
「これいちご大福の中身のいちごか……、まぁはずれじゃないか」
「ポテトチップスが甘いよ~、美味しくない……」
「うっ……、パンが全部吸ってるじゃない! パンにチーズがついて、餡がついて、出汁も皆拾って、しかも甘い……、桂川君! 何入れてるのよ!」
「うまいうまい。これくらいなら全然食える」
偶然かどうか知らないが、一番いい食材を持ってきたはずの真理亜が、パンを引き当てて、地獄を見ていた。
まぁ、楽しく過ごせて、俺の胃袋も満たされて一応親睦会は成功したといえるだろう。ちなみに、闇鍋は俺が美味しく頂きました。大体美味かったし、多少まずくても栄養価高そうだったし。
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